猛暑の8月7日(日)、東京・渋谷の「パルコ劇場」が休館となった。思い出すのは、この、ちょっと贅沢な劇場で観た、いくつかの舞台。それ以上に、観ることのできなかった、たくさんの舞台。また、プロデューサーとして制作したドラマで、この劇場を貸切にして行った大掛かりな撮影。そして、演出家・福田陽一郎さんのことも。
福田陽一郎(1932-2010)という名前を意識したのは70年代半ばだった。「渋谷パルコ」が、商業施設でありながら文化の発信基地というイメージで登場し、「公園通り」と共に渋谷の街のイメージを変えてしまった頃だ。
西武劇場(現パルコ劇場)で「ショーガール」というミュージカル・ショーが上演されていた。出演は木の実ナナと細川俊之だ。当時の貧乏学生としては、気にはなったが見られるはずもなく、パルコに掲げられた巨大な看板というか、宣伝幕みたいなものを見上げるばかり。その演出家が福田陽一郎さんだったのだ。
福田陽一郎:著『渥美清の肘突き~人生ほど素敵なショーはない』(岩波書店)は、福田さんの自伝的回想録である。昭和7年生まれの福田さんが、戦後の学生時代、日本テレビのディレクター時代、そしてフリーとして舞台演出や脚本などで大活躍する時代を、いかにエンタテインメントと共に生きてきたかが綴られている。
タイトルに渥美清の名が入っているが、福田さんは、渥美清が若いころから亡くなるまでの長い時間を、よき友人として過ごした。「肘突き」も含め、福田さんしか知らないエピソードが満載だ。
それにしても、テレビ草創期の現場の熱気というか、はちゃめちゃぶりというか、何をやっても初めてであり、毎日が実験とお祭りみたいな日々は、読んでいて羨ましくなる。登場する役者は、その後重鎮と呼ばれるような人たちだが、彼らもまだ若く、福田さんと一緒になって何かを生み出そうとしていた様子が目に浮かぶ。
たとえば昭和38年、福田さんが日テレ時代に演出した『男嫌い』は、越路吹雪、淡路恵子、岸田今日子、横山道代という当時の人気女優4人を集めた連続ドラマだ。ゲストの男たちが、毎回、4人姉妹にやり込められるのがミソ。シチュエーション・コメディのはしりみたいな内容だったという。映像が残っているなら、ぜひ見てみたいものだ。
この洒脱な内容の本が、マジメなイメージの強い岩波書店から出ているのも面白い。割と小さな文字がぎっしり詰まっているが、巻末の三谷幸喜さんとの対談も含め、一気に読んでしまった。確かに、人生ほど素敵なショーはないかもしれない。