「勇者ヨシヒコ」人気の秘訣
ダシュウ村、ニッテレン、テベス…
絶妙パロディー
テレビ大阪系で放送中の深夜ドラマ「勇者ヨシヒコと導かれし七人」(毎週月曜深夜0時12分~)が話題を呼んでいる。録画を含めた「総合視聴率」が7%を超えることもあり、深夜番組としては異例の人気。「勇者が魔王を倒す」というゲームを題材にした冒険活劇だが、作中には他局の人気番組や話題の商品のパロディーがちりばめられている。表現を抑えつつある近年のテレビ番組の中では異彩を放ち、パロディーの成功例として注目されている。
11月7日深夜放送の第5話は、ツイッターなどのSNSを中心に大きな反響を呼んだ。主人公の勇者ヨシヒコ(山田孝之)らは「ダシュウ村」で、バンド演奏がしたいのに農作業ばかりしてしまう5人の青年と出合う。村の守り神「ニッテレン」が魔物に操られ、村人にのろいをかけたのだという。ヨシヒコたちは、かつて最強の神とされた「シエクスン」や、別の神「テベス」に助けを求めようとするが、頼りにはならないとの情報が…。
日本テレビ系のバラエティー番組「ザ!鉄腕!DASH!!」と出演者のグループ「TOKIO」のパロディーに始まり、民放テレビ局間の視聴率競争の現状を虚実ないまぜに描いた内容だ。
元テレビプロデューサーで上智大学教授の碓井広義氏(メディア論)は「余計な解説はなく、分かる人だけが楽しめるパロディー。中途半端ではなく、針が振り切れている面白さがあった」と評する。
番組はゲーム「ドラゴンクエスト」を開発したスクエア・エニックス社の協力でテレビ東京が制作。深夜ドラマを数多く手がけた、放送作家の福田雄一氏が監督、脚本を務めている。主役級には山田孝之をはじめ、宅麻伸、木南晴夏、ムロツヨシといった実力派を配置しているが、「低予算」のため、ハリボテのモンスターが登場し、大きなモンスターとの戦いは動きの少ないアニメーションで表現するなど全体にチープな作りなのが特徴だ。
ビデオリサーチによると、第6話までの平均視聴率(関東地区、毎週金曜深夜放送)は3・2~4%で推移。録画を含めた総合視聴率は7・4%(10月28日放送分)を記録することもあり「深夜番組としてはとても高く、十分に人気といえる」(ビデオリサーチ)水準に達している。
「果敢なパロディー」は枚挙にいとまがない。第3話では、1人で「異世界」を旅したヨシヒコが、ジャンプをしながら仲間のもとへ帰ってくる。全身がモザイク処理されているためはっきり見えないが、仲間のせりふで、ひげをたくわえ赤い帽子をかぶっていることが明らかにされる。任天堂の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」を彷彿とさせる姿だ。
任天堂は、「事前に企画の持ち込みなどはなかった」としながら、番組について「特にお話することはない」と静観の構え。同じ放送回ではカプコンのゲーム「モンスターハンター」のパロディーとおぼしき映像もあったが、カプコンは「『モンスターハンター』とは認識していない。コメントできない」。
第2話ではゾンビとなった村人たちを浄化する「プラズマクラスター」が登場。同名のイオン発生機を販売しているシャープの広報担当者は「企画部門、プロモーション部門の担当者とも話を聞いておらず、驚いていた」と明かす一方、「弊社商品がネガティブに扱われたわけではない。『歓迎』とは言えないが、社内では好意的に受け止められている」と説明する。「ネタ元」が目くじらを立てる気配はない。
前出の第5話では、フジテレビ(CX)を暗示する「シエクスン」には「蘇ると思うよ」「期待してます」などと声がかけられ、テベスには「日曜の夜に、まれにとんでもない力を発揮する(TBSの日曜劇場)」などとフォローも入っていた。
碓井氏は「悪意はなく、おとしめようとはしていない。パロディーを文化として楽しもうとしている」と分析。「テレビがまだまだ面白いからこそ、パロディーの題材になった。最近の『コンプライアンス』に縛られつつあるテレビの幅を広げる挑戦で、他局の作り手も奮起してほしい」とエールを送る。
当のテレビ東京はパロディーには言及せず、番組について「悪いイメージを与えないよう心がけて制作しています」とコメント。毒のある笑いを追求しつつ、ネタ元に嫌がられない絶妙なバランス感覚が、人気の秘訣かもしれない。
(産経新聞 2016.12.08)