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Channel: 碓井広義ブログ
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書評した本: 池澤夏樹 『知の仕事術』ほか

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「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。

旺盛な知力の源泉が明かされる!
池澤夏樹 『知の仕事術』 
インターナショナル新書 799円

完結した個人編集の世界文学全集に続いて、日本文学全集を編んでいる池澤夏樹。

しかも刊行中の『池澤夏樹=個人編集 日本文学全集』全30巻(河出書房新社)では、現代作家による古典の新訳という試みを行っている。たとえば江國香織「更級日記」、古川日出男「平家物語」、そして堀江敏幸「土左日記」といった“キャスティング”は、池澤氏ならではのものだ。

小説や書評などの仕事と並行しながら、これだけの取り組みを展開する知力は、いかにして維持されるのか。そんな疑問に答えたのが、新著『知の仕事術』である。

軸となるのは、本をめぐる具体的なノウハウだ。生きていく上で必要なものとして、著者は「情報」「知識」「思想」の3つを挙げ、それらの「源泉」として本を重視する。

「本の探しかた」では書評の有効性を示し、「本の読みかた」では速読と精読の使い分けから、“知的労力の投資”と呼ぶ古典との付き合いかたまでを語っていく。

また、「モノとしての本の扱いかた」として、6Bの鉛筆による書き込みや小さな付箋の使いかたなどを公開。そして本好きが誰でも直面する、蔵書とスペースの問題についても、「本の手放しかた」の章で詳述している。中でも自分と本の関係を、ストックとフローの2種類で考える方法が興味深い。「いま」必要な本を書棚に置く覚悟だ。

さらに本以外でも、独自の時間管理法やアイデア整理術などが、実践的技術論として大いに参考となる。


東谷 暁 『予言者 梅棹忠夫』
文春新書 1015円

高度成長から情報化社会まで、梅棹は戦後日本社会に関する予言をいくつも的中させてきた。著者は言論人、思想家、文化行政プランナーとしての軌跡を精査し、「あるがままに見定める」ことへの集中が可能にしたとする。師・今西錦司との確執も実に人間くさい。


笠井 潔 『テロルとゴジラ』
作品社 2376円

『テロルの現象学』で知られる著者の最新評論集。中でも表題作がゴジラ級の迫力だ。新旧ゴジラを核爆弾の化身、原発事故の化身、そして戦死者の御霊という3つの観点で解読しながら、この国の社会と政治を撃つ。トランプのアメリカと「本土決戦」も辞さずの覚悟だ。


高山 宏 『見て読んで書いて、死ぬ』
青土社 3456円

「ひとつの本をそれが置かれた環境の中において評するのが、書評家の仕事」だと著者は言う。一冊突破の全面展開。古今東西の書物との連環は、立体的な知の見取り図を思わせる。また監督・俳優北野武を「アートに運慶の果たした役割」とする映画評も深く鋭い。

(週刊新潮 2017年2月9日号)

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