ディーン・フジオカも
芸能人の報道番組起用の狙いと課題
4月にスタートするテレビ朝日の新番組『サタデーステーション』(毎週土曜20:54~)への出演が決まった俳優のディーン・フジオカ(36)。国際派俳優として鳴らしてきた彼がMCの高島彩(37)とともにどんな番組を作っていくのか注目されるところだが、さまざまな疑問も湧いてくる。彼に与えられた「インフルエンサー」(世の中に影響力を持つ人)という肩書きもその一つ。
元テレビプロデューサーであり上智大学教授(メディア論)の碓井広義さんも、「報道番組でインフルエンサーという肩書きは聞いたことがない」という。
「おそらく取材に出たりコメントを述べたりしながら番組に関わっていくのでしょうが、そもそもディーンさんが影響力を持つインフルエンサーなのか、という疑問があります。ディーンさんが時事問題について何かを発言して社会的な反響を呼んだことがあるかというと、ない。番組側が彼をインフルエンサーにしたいという思惑が秘められているのかもしれませんね」(碓井広義さん、以下「」内同)
ディーン自身は公式ホームページで次のように発信している。
<私は報道に関わる分野にて何かの専門家でも特殊な技能がある訳でもありませんが、インフルエンサーという役目を頂いたからには少しでも番組進行のお役に立てるよう、より良い未来に繋がる変化や気付きのきっかけを作る問いかけや提案をしていければと考えております>
当の本人も、たまたまそういう肩書きをもらっただけで、自分がインフルエンサーだという自覚はなさそうだ。なぜテレビ朝日は、報道番組に馴染みのない席を用意してまで“報道初心者”のディーンを起用したかったのだろうか。
「テレ朝としては、朝ドラの『あさが来た』(NHK)のイメージのままのディーンさんを使いたかったのだと思います。素のディーンさんはインフルエンサーでなくても、ディーンさんが演じた五代友厚はヤリ手の男でインフルエンサーと呼べる人物。
朝ドラ後、ディーンさんは何本かのドラマに出演していますが、まだそれを上回る役に出会えていないので、今も五代のイメージと重ねてディーンさんを見ている人もいるでしょう。高島彩さんでおじさんたちを捕まえて、ディーンさんで30代、40代の女性を捕まえようとしているのかもしれませんね」
言ってしまえば客寄せパンダということか。しかしそれならばディーンでなくとも他にたくさんいるはずだ。それこそタレントや芸人でも務まってしまうが……。
「タレントだと番組全体が軽くなってしまいます。でも役者なら、タレントよりは重さがある。レポートだってタレントよりもうまくやるでしょう。役者ですから、それをしている自分を演じればいいんです。本質的にインフルエンサーになるかどうかは別として、『インフルエンサーのディーン・フジオカ』を演じていれば番組の進行上は問題ないはずです」
確かに「何にでもなれる」という役者の強みを活かせば、報道初挑戦とはいえうまく順応しそうだ。過去に報道番組に出演していた俳優としては、たとえば1997年4月から『スーパーJチャンネル』のMCを勤めた石田純一(63)がいる。不倫問題によりわずか1年での降板となってしまったが、純粋に司会者として見た場合、どうだっただろうか。
「石田さんは人がよく、周りの雰囲気を明るくできるので、番組自体はうまく回っていたと思います。ただ、特別な見識があるわけではないので、そこから何かを問いかけるというところまではいかなかった。言ってみれば座持ちのいいホストでしょうね」
2006年から『NEWS ZERO』(日本テレビ系)にキャスターの一人として出演している櫻井翔(35)も、アイドルでありながら俳優の一人。いつの間にかキャスター歴も10年を越えているが……。
「櫻井さんは頭のいい青年としてとてもうまく立ち回っているように思います。あえて強い意見を言わずに、一つひとつの話題を上手にさばいています。同じジャニーズで『news every.』(日本テレビ系)に出演するNEWSの小山慶一郎(32)さんも、それに似たところがあります」
どの人物も報道番組に抜擢されるだけあって、一定水準はクリアしている。しかし碓井さんはある違和感を払拭できないのだという。
「タレントや俳優が報道番組でニュースを扱うというのはおそらく日本独自の文化だと思います。海外でたとえばクリント・イーストウッドやジョージ・クルーニーが何かの機会に政治や社会問題に対するメッセージを表明することはあっても、俳優自身が毎日のニュースについて語ることはありません。
嵐の櫻井さんが『NEWS ZERO』のキャスターに決まった時、多くの人が『どうして彼からニュースを聞かないといけないの?』と戸惑ったと思います。慶應大学を出ているといってもそういう人は世の中にたくさんいるし、櫻井さんがなぜ報道キャスターをするのか、今ひとつ理解しきれなかった。同じく『NEWS ZERO』キャスターの桐谷美玲(27)さんもスタジオの華になってはいるけれど、『そもそも報道にそういうものって必要なの?』とも思います。いつの間にか慣れてしまいましたが、よくよく考えると私たちは、俳優やタレントがニュースを伝えるという不思議な光景を目にしているのです」
報道番組の本来の使命は、世の中の出来事や関心事を公平・公正に伝えることにある。しかしテレビビジネスがシビアになる中で、「報道といえども視聴率を取らなくてはいけない時代になっている」と碓井さんは指摘する。視聴者の呼び込み策として、俳優やタレントを起用するケースが今後ますます増える流れは止まりそうにない。
『サタデーステーション』もまた、そのような番組の一つになるのかもしれないが、ディーン個人に関していえば「俳優としての株を上げるチャンスでもある」と碓井さんは言う。そのためのヒントとなるのが、すでに芸能界にいない意外な二人だ。
「『サンデープロジェクト』(テレビ朝日系)の司会を務めた島田紳助さんは、リアルさを見せてくれました。それができたのは、紳助さんが芸人である部分をその番組では捨てていたからです。決して笑いを取ろうとはしていなかった。ディーンさんも、報道の仕事をサブの仕事とは考えずに、俳優である自分を捨てて本業のつもりでやりきる覚悟が必要だと思います。原稿をただ読むだけでなく自分の言葉で語るディーン・フジオカの姿を見せられれば、ファン以外の人も『なかなかやるな』と評価を上げるでしょう」
もう一人の人物は、経歴詐称疑惑により番組MCのスタートラインにも立てなかったショーンKだ。
「彼はああいう形でテレビから消えてしまいましたが、ラジオ番組では内実のある印象的なコメントを出していました。だからこそ多くのリスナーに支持されていた。ショーンKを通して見える社会や政治を見せてくれていたわけです。ポイントを押さえて、『これって変じゃないですか』と提示する力は確かに持っていました。ディーンさんも、答えがなくてもいいから自分なりのクエスチョンを見つけてそれをぶつけられれば、それだけでも報道番組に出る意味はあったといえるでしょうね」
ブレイクも一段落したディーンの新たな挑戦に注目したい。
(NEWS ポストセブン 2017.02.25)