【ZOOM】2時間ドラマ栄枯盛衰
視聴率低迷、消える放送枠 シニア層狙いBSへ
サスペンスやミステリーとしてお茶の間で人気を博した「2時間ドラマ」が地上波から姿を消しつつある。
最盛期の昭和60年代から平成初期にかけては20%前後の高視聴率を獲得していたが、近年は1桁台にまで落ち込み、民放各社は相次いで放送枠の縮小にかじを切った。一方、シニア世代の視聴者が多いBS放送では再放送を主力コンテンツに据え、ファンの取り込みにつなげている。(三宅令)
◆費用対効果…
テレビ朝日の2時間ドラマ枠「土曜ワイド劇場」は4月の番組改編で40年の歴史に幕を下ろした。4月以降は、日曜午前のドラマ枠「日曜ワイド」に移ったが、土曜ワイド劇場の再放送が多いのが実情だ。
土曜ワイドの放送開始は昭和52年。2時間ドラマの草分けとして、市原悦子主演の「家政婦は見た!」(昭和58~平成20年)や、渡瀬恒彦の「タクシードライバーの推理日誌」(平成4~28年)などの作品を世に送り出した。
2月には、船越英一郎の「刑事吉永誠一 涙の事件簿」(16~28年)などを生んだテレビ東京の「水曜ミステリー9」も放送を終了している。
黎明(れいめい)期には「お茶の間で見られる映画」として人気を博し、最盛期には週7~8本が放映されるなど各局の競争が激化。風光明媚(めいび)な名所での殺人、高所から突き落とす殺害方法-など「お決まり」の定着は、各局が安定的に視聴率を得られる内容を選んだ結果だ。しかし、レンタルビデオ店の増加やインターネットの動画配信サービスの普及に伴い、コンテンツとしての魅力が薄れていった。
上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は「時代の変化や内容の陳腐化、ファンの高齢化などで視聴率は低下。数千万円の予算と数カ月単位の時間をかけて制作するには費用対効果が悪くなった」と指摘する。
◆午前午後2枠
連続ドラマと比べると、スポンサーとなる企業側の考えも見えてくる。2時間ドラマの視聴者の中心は50代以上であるのに対し、連ドラは20~40代。就職や結婚などで大型家電や住宅の購入など消費が増える時期で、「企業として2時間ドラマ枠よりも広告を出す価値がある」と碓井教授は分析する。
しかし、2時間ドラマがコアなファンを抱えているのも事実だ。放送を終了した土曜ワイド劇場も「視聴者から惜しむ声がある」(早河洋テレ朝会長)。2時間ドラマファンという主婦(58)=横浜市=は「毎週欠かさずみていたのに残念。ストーリーを先読みできるけれど、安心してみていられるところがいいのに」と嘆く。
「ファンの多くはBS放送に流れている」。テレビ東京の高野学編成部長はこう解説する。BSの2時間ドラマは、時代劇や趣味の特集などと並んで主力コンテンツの一つだ。
各局とも平日昼に高視聴率を得た過去の人気作の再放送に力を入れる。テレ東系のBSジャパンは「ザ・ミステリー」、BSフジは「BSフジサスペンス劇場」を放送。BSTBSでは午前と午後の1日2枠を設けており、「各局ともファンを積極的に取り込み、視聴者の定着に成功している」(高野部長)。
◆本数を絞って
地上波から2時間ドラマが姿を消していく中、枠を堅守しているのがTBSテレビだ。同局は月曜夜に「月曜名作劇場」の2時間枠を設け、新作ドラマを中心に放送している。同局編成局の橋本孝担当局長は「2時間ドラマは今でも魅力的なコンテンツ」と力を込める。以前は午後9時からのスタートだったが、午後10時を過ぎるとテレビを見るシニア層が減るため、1月から開始時間を午後8時に前倒しした。
「謎を解明する展開さえあれば、切り口は自由でいい。育児放棄など社会性のあるテーマは2時間ドラマにこそ向いている。訴求力のあるドラマを作りたい」
テレ東の高野部長も「決して2時間ドラマに見切りをつけたわけではない。もっと予算と時間をかけ、スペシャルドラマとして本数を絞って今後も放送していく」としている。
(産経新聞 2017年5月30日)