北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、8月の終戦特番をめぐって書きました。
終戦特番に込められた現代の課題
メディアと権力の力学に迫る
8月は終戦特番が何本か放送された。その中で出色だったのが14日のNHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」である。
日中戦争から太平洋戦争にかけて、いわゆる従軍作家が百人以上も戦地に送り込まれた。林芙美子、吉川英治、丹羽文雄、石川達三、石坂洋次郎、火野葦平など当時の人気作家が並ぶ。番組では「麦と兵隊」などで知られる火野を軸に戦争と作家の関係を探っていた。中でも兵士として戦場にいた芥川賞作家・火野を、陸軍は“有効活用”していく。
感心したのは、人物への迫り方と距離の取り方だ。火野や陸軍のメディア戦略担当・馬淵逸雄中佐の内面にまで迫っていくが、あくまでも客観情報に徹している。また戦争によって栄誉を受け、後に自殺した火野を、いたずらに貶(おとし)めることも庇(かば)うこともしない。
火野の心中は複雑だった。親族に宛てた手紙には密かに戦場の現実が記されており、また戦後には原稿に修正を加えている。初公開の従軍手帳、関係者の証言、さらに兵士の言葉を借りた自戒の念などを丁寧に構成することで、「従軍作家・火野葦平」だけでなく、「人間・火野葦平」の姿も見えてきた。あらためて、現在にも通じるメディアと権力の力学を考えさせられる1本だった。
民放では2本のドラマに注目した。1本は4日放送の松下奈緒主演「二十四の瞳」(テレビ朝日―HTB)だ。木下恵介監督作品としてよく知られている。「人間の幸福と平和を願う」という趣旨は結構だが、過去の名作のリメークに漂う“後ろ向き感”は否めない。
もう1本が、7日の「生きろ〜戦場に残した伝言〜」(TBS―HBC)である。こちらは意欲作と言っていい。主人公は実在の人物で、戦中最後の沖縄県知事・島田叡(あきら)。演じたのは緒形直人だ。内務省の役人だった島田は沖縄戦開始の2ヶ月前に着任するが、すでに戦況は悪化しており、一般人の犠牲者も増える一方だった。島田はいくつもの規制を撤廃し、また軍部にも抗議しながら、1人でも多くの沖縄県民が生き延びることに尽力する。そして最後は行方不明となった。
そんな「伝説の知事」を、番組は島田と身近に接した関係者の証言や資料に基づくドラマとドキュメンタリーで描いていく。沖縄の人々が本土防衛の「捨石」とされる過程を伝える上でも、この手法は有効だった。「軍隊は住民を守らない。(それが)住民たちが沖縄戦で得た教訓だ」というナレーションには、68年後の現状に対する痛烈な批判が込められている。
(2013年9月2日)