TBS「陸王」好スタート
阿川佐和子の“意外な”女優力
今月始まったTBSドラマ「陸王」は、第1話の視聴率が14.7%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)と好スタートを切った。原作は人気作家の池井戸潤。安定した視聴率が続きそうだが、連ドラの初レギュラー出演となる作家でエッセイストの阿川佐和子の好演も話題だ。
老舗足袋店「こはぜ屋」の縫製課リーダー、正岡あけみを演じる。課員の女性を引っ張り、鍵となる「マラソン足袋」の開発に大きく関わる存在。第1話の「絶対間に合わせるよ!」と従業員たちを大声で鼓舞する場面も印象的だった。
今回の出演について、「まさに青天のへきれき」とコメントしていた阿川。今の心境を尋ねると、「演技は初めてではないけれど、素人なので自然体でいいのかなと思っていました。すると、監督に、『自然体じゃダメ。大きな声でハッキリと』と言われました」という。
「大きな声でハッキリと」の演技をするために思い浮かんだのが、趣味のゴルフのプレー。「ボールがとんでもないところに飛んだとき、キャディーさんと一緒に『ファーーー!』と言うんですが、本当におなかから大声を出さないといけない。そうか、その気持ちでやればいいのかと」
第1話でみせた「絶対間に合わせるよ!」のセリフの説得力は、ゴルフ場で培われたのかもしれない。
「今回の役どころは、そんな声を出す元気なおばちゃん。それを忘れないよう、ずっと大きな声でやるようにしています。ドラマの現場以外でも大きな声が出てしまい、あけみの癖がついていてびっくりです」
TBSテレビ宣伝部の川鍋昌彦氏は「演技の専業ではない方と思えないほど。阿川さんが現場にいらっしゃると、雰囲気がパッと明るくなります」と話す。
上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は、阿川の姿を「画面が生き生きして、ドラマに“点”を打つような存在」と評する。
「視聴者は、作家・阿川さんがドラマでどう演じるのかな、とみる。俳優でない人が出演する場合、元のイメージによってフィクションから現実に引き戻されることがあります。ただ、今回の役は仕事に誇りを持ちながらみんなのために筋を通す女性で、視聴者が抱く阿川さん像とリンクする。とてもうまい起用と感じました」
今後のドラマの見どころについて、阿川に聞くと、
「マラソン足袋の開発とは別のベクトルで、登場人物がそれぞれの立場で何かと戦っている。視聴者の方々も、その誰かの生き方に思い入れをもって見て頂けるかなと思います」
話の展開とともに、連ドラ女優として疾走する阿川からも目が離せそうにない。【本誌・太田サトル】
(週刊朝日 2017年11月3日号)