秋ドラマ採点
米倉涼子「ドクターX」が独走、
篠原涼子「民衆の敵」は大コケの予感
民放各局の勢いが表れる秋ドラマの視聴率競争。トップは、米倉涼子主演の「ドクターX 外科医・大門未知子」(テレビ朝日系)だ。
決め台詞「私、失敗しないので」で知られる医療ドラマは、視聴率でも失敗と無縁のようだ。初回20.9%(ビデオリサーチ調べ・関東地区、以下同)と、他を大きく引き離している。
今期のテレ朝は、初回視聴率2位の「相棒シーズン16」(15.9%)や5位の「科捜研の女シーズン17」(12.3%)など、人気の連作をそろえた。冒険をしない方針のようにみえる。
上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)は言う。
「強い作品を並べてとことん勝とうという姿勢で、視聴率を稼げるときに最大限稼ぐねらいでしょう。連作を長年見る視聴者へのサービス期間という面がある一方で、次の目玉作を着々と準備していると思います」
ヒット作が続くテレ朝の牙城を切り崩そうと躍起なのが、「逃げるは恥だが役に立つ」を昨秋大ヒットさせたTBS。「半沢直樹」「下町ロケット」に続く池井戸潤原作の、「陸王」(14.7%)を日曜夜9時に据えた。
金曜夜10時は、産科が舞台の医療ドラマ「コウノドリ」。初回視聴率(12.9%)は「陸王」に続き、4位に食い込む。主演綾野剛で、脇を固めるのは星野源に坂口健太郎と充実の“塩顔”ラインアップ。心待ちにする女性が多い作品で、テレビ評論家の吉田潮さんも「今期の一押し」という。
「出産が抱える問題をリアリティーたっぷりに描いている。流産や育児ストレスなどシリアスなテーマにも踏み込んでいて、きれいごとだけじゃないお産の現場をちゃんと映し出している。性教育として、中高生も見るといいと思いますよ」
さらに、宮藤官九郎脚本の「監獄のお姫さま」もTBSの推しドラマ。「逃げ恥」「カルテット」と好調作が続く火曜夜10時枠の“肝いり作”だ。過去に罪を犯した女性らが手を組み、男に復讐するストーリー。
主演の小泉今日子に加え、満島ひかり、菅野美穂、森下愛子、夏帆ら、豪華出演者がそろう。初回視聴率も9.6%とまずまずの仕上がりになっている。
「年を重ね、人生の深みも感じさせてくれるメンツがそろった。豪華女優陣による、演技勝負の場としても楽しめます」(碓井教授)
ドラマ評論家の成馬零一さんも、「今期一番の期待作」と評する。
「クドカンならではの冒険が随所に見られる異色ドラマ。最終話まで続けて見ないと腹落ちしない、パズル的な作りでは。視聴者に媚びず、安直な作りに走らない姿勢は、“ドラマのTBS”ならではのプライドと器の大きさを感じます」
女性が団結して男性に立ち向かう構図は、綾瀬はるか主演の「奥様は、取り扱い注意」(日本テレビ系)も同様だ。元特殊工作員の綾瀬が専業主婦となり、近所のトラブルを仲間と解決するストーリー。初回視聴率(11.4%)も好調で、視聴率3冠を守る日テレの意地を感じる作品となった。
「綾瀬のアクションシーンも見どころの一つ。NHK『精霊の守り人』での訓練の成果もあり、さすがと思わせる動きです。脚本は、小説『GO』で直木賞を受賞した金城一紀。クドカンが描く“女性の団結”と対比させながら見るのもおもしろいですよ」(成馬さん)
一方で、今秋のドラマでもさえないのがフジテレビ。“月9”に据えた篠原涼子主演の
「民衆の敵 世の中、おかしくないですか!?」は、初回視聴率9.0%。テレビ界では早くも“大コケの予感”との評がある。
「庶民派でやんちゃな女性が異世界で頂点をめざすという、フジの大好きな構図。ですが、この設定はもはや今の世ではありえなさすぎて、チープに映る。視聴者に媚びる感じの篠原涼子の小芝居も、どうしても鼻につきます。脇には石田ゆり子や高橋一生と、良いメンツがそろっているのに、残念です」(吉田さん)
今秋のドラマは「久々の豊作」とも言われる。碓井教授、吉田さん、成馬さんともに「しっかり腰を据えて見たいと思わせる作品ぞろい」と口をそろえる。
秋ドラマの視聴率競争、視聴者の審判はいかに?(本誌 松岡かすみ)
(週刊朝日 2017年11月10日号)