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Channel: 碓井広義ブログ
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「倉本聰 ドラマへの遺言」 第7回

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倉本聰 ドラマへの遺言 
第7回
素人には藤沢周平の短編集を
脚色する課題を与えるべきだ

碓井 日本では「シナリオライター」と「脚本家」に2つの異なる役割があることは広く知られていません。制作サイドもどこまで線引きできているのか。

倉本 米国ではいまだにきちんと分業してます。ハリウッドのアカデミー賞の授賞式を見るとお分かりになると思うのですが、脚色賞が初めの方で呼ばれるのに対し、脚本賞は後半で発表される。

碓井 原作がある場合は「脚色賞」で、丸ごとオリジナルの場合が「脚本賞」。

倉本 「撮影台本」を書くっていう仕事は「ストーリー」を書く仕事とは別。ですので、ヤングシナリオ大賞を受賞したからといって、いきなり素人にオリジナル脚本を書かせるのはどだい無理な話。物語自体を書く仕事があって、その上で撮影台本を書く。それをゴッタにしているところに大きな課題を感じます。

碓井 オリジナルを書く実力を身につけるには修業が必要ですね。

倉本 ええ。もし新たにシナリオ賞をつくるのであれば、たとえば、藤沢周平の短編集を脚色しろっていう課題を与えたほうがいいですね。

碓井 最近も「北の国から」の杉田成道さんが、藤沢さんの「橋ものがたり」を映像化しましたね。藤沢作品は物語の骨格がしっかりしています。しかも、事細かな心理ではなく登場人物たちの行動が描かれていきます。その行間を読むように想像力を働かせるのは、とてもいい脚色の訓練になると思います。

倉本 そうでもしないと、本当のシナリオライターは育たない。それをいまのテレビ業界は全く分かっていないんです。

碓井 いわゆる倉本ドラマはベースとなるストーリーを作ったのも、それを撮影台本に変えたのも先生です。でも、その先には演出家や役者さんがいるわけですよね。最終的に視聴者が見るものと、もともとの脚本との間に落差が生まれたりしませんか。

倉本 その落差も予想しながら、織り込みながら書いているってことはありますね。

碓井 たとえば「やすらぎの郷」の中で、ちょっと気になった場面があったんです。藤竜也さんが演じる高井秀次(高倉健を思わせる、任侠映画などで活躍した寡黙な俳優)がやすらぎの郷に入居することになって、女性陣は喜ぶわけです。とはいえ10代、20代の女の子じゃないから、感情をむき出しにしてキャーキャー喜んだりはしないはず。それなりに見えもあるから、「あ、そうですか」って感情を抑える。本来なら内心の喜びがにじみ出ちゃうのがおかしいっていう表現にならなきゃいけないと思うんですが、オンエアを見たら、皆さん、ハシャギ回っていました(笑い)。

倉本 うーん、そう見えましたか。僕は、チャプリンの「人生はクローズアップで見れば悲劇。ロングショットで見れば喜劇」という言葉が喜劇の本質だと思っているんですよね。でも、碓井さんが違和感を持ったとすれば、それは女優たちのせいじゃない。大人のドラマとしてのニュアンスが十分に伝達できていなかったという意味で、僕のスクリプト(台本)が弱かったのかもしれないなあ。(あすにつづく)

(聞き手・碓井広義)

▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。

▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。

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