発売中の「サンデー毎日」最新号に、朝ドラ「ごちそうさん」の特集記事が掲載されました。
確かに10月のスタート時からの好調が今も持続しています。
記事の中で、この「ごちそうさん」の魅力について解説しました。
「あまちゃん」超えの視聴率
NHK朝ドラ「ごちそうさん」が好調なワケ
ヒロイン杏をいびり倒す
小姑・キムラ緑子の味わい
NHKの朝の連続テレビ小説「ごちそうさん」はなぜ、これほど好調
なのか。
上智大学文学部の碓井広義教授(メディア論)が言う。
「幼少期から描く女性の一代記という意味では、朝ドラの王道です。ただ、ヒロインのめ以子は恐らくプロの料理人になるのではなく、家庭で料理を作り続けるでしょう。そして、登場する食べ物がまたいい。特別なものではなく、オムレツや納豆、おにぎりなど、身近なものにスポットを当てているのが親しみやすいですね」
確かにこれまでのヒロインは、医師や弁護士、教師などが多かった。しかし今回は、一般庶民の日常生活を取り入れて丁寧に描いている。そこが、視聴者に安心感をもたらしているようだ。
前作の「あまちゃん」にはスピード感があって、一秒たりとも見逃せないジェットコースター的な面白さがあった。ところが今回は、従来のテンポに戻り落ち着いて見ることができる。あまちゃんを見慣れた視聴者にとっては、本来の朝ドラのリズム感に戻ってちょうどいいリハビリになっている。これも好調の要因だろう。
多くの人が興味を持つ食べ物に焦点を当てて共感を得ている中で、もう一つ注目すべき点があると、前出の碓井教授は指摘する。
「それは嫁いびりです。嫁いびりは視聴者、特に女性に受けるドラマの定番でしたが、最近はあまりなかった。だからこそ逆に新鮮に感じます。しかも、現代的ないびりだと悲愴感がありますが、ドラマは大正・昭和初期が舞台なので、余裕を持って見ることができるのもいいですね」
こんな印象的ないびりのシーンがあった。嫁であるヒロインのめ以子が小姑の和枝に、こう宣言される。
「女中だ!」
「まだ女中なんだ、嫁じゃない」
いかにも昔のきついいびりである。
しかし、お膳をひっくり返されても、拾ってご飯を食べてしまうめ以子もたくましい。家財道具を実家に送り返されそうになっても、まったく動じることがない。
「あの時代に、これほど逞しい女性は珍しかったでしょうから、ほどよく現代的な要素を取り込んでいる。実にうまい設定です」(前出の碓井教授)
コラムニストの桧山珠美さんも、こう見ている。
「視聴者は『あの姑は本当にひどい』と思うより、むしろ面白がっている。時々やり返したり、旦那や幼馴染の源ちゃんに愚痴ったりして、ストレスをまったくため込んでいません。そこが痛快です」
その小姑の役を演じ、はっきりとモノを言う迫真の演技を見せているキムラ緑子(52)とは、どんな女優なのだろう。桧山さんが解説する。
「2010年に解散した『M.O.P.』という劇団の看板女優でした。そこで脚本や演出を担当していたマキノノゾムさんが夫です。テレビや映画でも四半世紀以上にわたって活躍しています。親は教師で、幼少期から厳格な家庭に育ち、同志社女子大を卒業後は塾の講師をしていましたが、大学時代に始めた演劇から離れることができず、本格的に女優を目指した方です」
つかこうへいとも親交があり、1984年に上京し、『M.O.P.』の旗揚げに参加。舞台のほか、関西のテレビ番組を中心に活動していたが、日本テレビ「雲の階段」、TBS「池袋ウエストゲートパーク」、テレビ朝日「ドクターX」などにも出演している。さらに「極道の妻たち」や「感染列島」など、多くの銀幕にも出ている。
「かつて井上ひさしさんの舞台に出て評判になり、最近ではTBSのドラマ「黒の女教師」で、クレームをつけるPTA会長役が印象に残っています。モノをはっきりと言う役どころが多いですね。こういう役は、確かな演技力の裏付けがないとなかなかできません。それだけに、実力派女優の一人といえるでしょう」(前出の桧山さん)
実は、キムラは朝ドラの常連でもある。02年には夫のマキノが脚本を担当した「まんてん」に出演した後、06年「純情きらり」、07年「ちりとてちん」などで脇を固めている。
名脇役ともいえるキムラの演技を、前出の碓井教授は評価する。
「私が印象に残っているのは、映画の『パッチギ』です。笑っているときは実にいい笑顔なんですが、物静かなシーンだと非常に凛々(りり)しい。もっと言うと、凛(りん)とし過ぎていて怖いくらいに感じてしまうことがあります。キムラさんにしかできない独特のオーラを醸し出していました。『ごちそうさん』の演技は、はまっていますね」
「いびり」が不快さにつながらない
そんなキムラだが、11月11日にNHKの「スタジオパークからこんにちは」に出演し、話題を呼んでいる「いびり」について言及し、次のような発言をしている。
「いびりシーンは、初めは戸惑いがありました。でも次第に役にのめり込んでいって、本当にご飯粒を口から飛ばしながら演じていました。今ではそれが、快感のような感じになってきています(笑)」
視聴者はキムラの演技を、自分に置き換えて見ているのかもしれない。姑はニヤニヤしながら、嫁側は「がんばれ、負けるな」と自己投影し、それぞれの目線から楽しむことができるのだ。
今後の展開について、桧山さんは期待を寄せる。
「め以子の周りはいい人ばかりなので、もっともっといびりがあるといいですよね(笑)。まだ『おしん』の姑の域には達していません。『ごちそうさん』を面白くするのも和枝の”いけず”にかかっていると言っていいのでは・・・・」
今後の展開について、碓井教授もこう深読みをする。
「壁を乗り越えるのが朝ドラの王道。その壁の一つが小姑です。小姑は単に嫁が気に入らなくていびっているのではなく、嫁を鍛えるニュアンスがあるように思えて、今後に期待しています。今は試している期間で、いずれ、小姑はめ以子の師匠の一人になっていくのではないでしょうか」
いびりがあっても全く不快さを感じさせないところも、このドラマが「おいしい」理由だろう。さまざまなおいしさを味わうことができ、見終わったあとに思わず「ごちそうさん」と呟いている人が多いかもしれない。
ジャーナリスト・青柳雄介/牧野めぐみ
(サンデー毎日 2013.12.01号)