相次ぐ入社1年目女子アナ抜擢、
「30歳定年説」早める可能性
この秋、民放各局のアナウンサー起用で、ある特徴的な動きがあった。入社1年目女子アナの抜擢である。例えば、日本テレビ入社1年目、岩田絵里奈アナ(23才)が、同局の長寿バラエティー番組『世界まる見え!テレビ特捜部』の新アシスタントに起用。同じく、同局1年目の新人、市來玲奈アナ(22才)は『行列のできる法律相談所』のアシスタントに決まった。入社半年の新人が、なぜ誰もが知る人気番組にこんなにも抜擢されるのか? その背景と思わぬ影響とは――。
上智大学文学部教授(メディア文化論)の碓井広義さんはこう指摘する。
「テレビ局は近年、即戦力になるアナウンサーを意識して採用しています。市來さんは乃木坂46、岩田さんも岡崎歩美としてアイドル活動をしていました。以前はタレント性のある人を選んでアナウンサーに育てていましたが、近年はタレントをアナウンサーにしているというのが採用の傾向です。テレビ局は“入社半年での起用なんて遅いぐらい”と考えているかもしれません」
4月にフジテレビに入社し、10月から情報番組『ノンストップ!』にレギュラーとして出演している杉原千尋アナ(22才)は元モデル、同じく1年目で10月から情報番組『めざめしテレビ』に抜擢された同局の井上清華アナ(23才)は大学時代、セント・フォースに所属し、昨年3月まで『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のお天気キャスターを務めていた。
「彼女たちは、わかりやすく正しい日本語で伝える、しっかり耳を傾ける、などアナウンサースキルは未熟なところがあるかもしれませんが、“現場経験”を持っているということは強みです。共演者やスタッフらへの対応も慣れたものでしょう。なにより、テレビカメラの向こうに、視聴者がいることを感覚でつかみ、堂々と視聴者に向けて発信できることが大きいと思います」(碓井さん・以下「」内同)
入社後、じっくりと育てなくても、既に“場慣れ”している彼女たちは充分、戦力になるとテレビ局は考えているのだ。
「逆に言えば、テレビ局側は新人教育に時間をかける余裕がないとも言えます。テレビ離れが指摘され始めたころから、即戦力を採用しようという動きが俄然強まってきました。数年かけて大切に育てていずれ大きな番組を任せよう、という考えはそこにはありません」
テレビ局にとっては、入社1年目の女子アナをバラエティーなどに起用することで話題づくりにもなり、その“宣伝効果”は大きい。一方で局にとっては懸念材料もある。本来、アナウンサーはタレント的な立場ではなく、ニュースなど視聴者に必要な情報をしっかり届ける役割があるはずだからだ。
「女子アナがタレント化することによって、報道キャスターなどを務める人材は育たないでしょう。今回入社1年目で抜擢されたアナウンサーも、最初から元タレントという印象で見られてしまうので、報道番組などでニュースを読むような硬派な仕事にはつきづらい。もっとも、最近のテレビ局は、はなから報道で活躍する人材ではなく、“バラエティー枠”として採用している可能性もありますが…。
ただ、アイドルやタレントからアナウンサーになった例はいくつもありますが、彼女たちが必ずしも局を背負って立つような看板アナに成長しているわけではない、ということは指摘しておきたいと思います」
また、即戦力の1年目アナの起用が続けば、今後、局に所属する女子アナのフリー化を早める可能性もあると碓井さんは指摘する。女子アナといえば、これまで「30歳定年説」という言葉があるように、30歳前後で退社して、フリーアナに転身するケースが多かった。
「以前なら、徐々に名前やキャラクターが知れ渡って、人気になっていくという流れがありましたが、近年は、ネットの影響もあって、一気にその名前と顔が知れ渡ります。看板番組に抜擢されれば、そのスピードはさらに速まります。あっという間に人気アナとして活躍する人も出てくるでしょう。
若手が抜擢されれば、それによって奪われるのは中堅女子アナたちの仕事です。つまり、入社1年目の女子アナの起用が増えていけば、20代半ばであってもその仕事が減ってしまうアナウンサーが多く出てきてしまうわけです。結果、女子アナたちが早々に退社を決断して、仕事を求めてフリーになることになってしまうのです。一部の人気アナをのぞけば、若手のうちにフリー転身したほうがチャンスは広がりますから」
入社1年目女子アナの抜擢、実は戦々恐々としているのは先輩女子アナたちかも。
(NEWSポストセブン 2018年10月03日)