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朝ドラ「まんぷく」 実録路線への不安と期待

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NHK朝ドラ「まんぷく」
実録路線への不安と期待

NHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)の新作「まんぷく」が始まった。安藤サクラが演じるヒロイン、福子のモデルは日清食品の創業者・安藤百福(ももふく)の妻、仁子(まさこ)だ。百福は「インスタントラーメン」を発明した人物であり、ドラマの中では「たちばな工房」の立花萬平(長谷川博己)となっている。

物語は昭和13年からスタートしており、女学校を卒業した福子は、ホテルに電話交換手として就職したばかりだ。32歳の安藤が18歳の福子になり切っているのは演技派女優の面目躍如だが、明るすぎて高すぎるテンションは朝からちょっと鬱陶しくもある。

安藤は映画「万引き家族」でも生かされていたように、何を考えているのかわからない、暗いキャラクターを演じさせたら世界レベルの女優だ。それが朝ドラという舞台に合わせて無理をしているようにも見えるのだ。

漫画家・水木しげるの妻、武良布枝(むらぬのえ)がモデルだった「ゲゲゲの女房」以降、朝ドラでは実在の人物をモデルにした作品が多く作られてきた。「カーネーション」(デザイナーのコシノ3姉妹の母・小篠綾子)、「花子とアン」(翻訳家・村岡花子)、「あさが来た」(実業家・広岡浅子)などだ。

大正生まれの仁子は、希代の起業家である百福を徹底的に支え続けた。ただし、仁子自身は翻訳家でも女性実業家でもない。伝記などによれば、肝っ玉母さん型の普通の主婦である。こうした、誰かを「裏で支えた人物」をドラマの主人公として成立させるのは結構難しい。参考になるのは「ゲゲゲの女房」だろうか。ゲゲゲならぬ、「インスタントラーメンの女房」。制作陣の腕の見せ所だ。

また、実在の人物がモデルであることが、必ずしも良い結果につながるわけではない。
何かに気をつかっているのか、事実や現実に縛られて、物語の幅や奥行きが狭まってしまうことがあるからだ。その残念な例としては、アパレルメーカー「ファミリア」を興した一人である坂野惇子がモデルだった「べっぴんさん」。「吉本興業」創業者の吉本せいを取り上げた「わろてんか」などがある。

とはいえ、脚本は大河ドラマ「龍馬伝」も手がけてきた福田靖。安藤サクラも長谷川博己も演技については折り紙つきだ。間違っても「チキンラーメン誕生60周年」という企業イベントの一環と思われたりしないよう、ポスト平成時代を生きる視聴者に新たな女性像、家族像を提示してくれる、刺激的な朝ドラであってほしい。

(北海道新聞 2018.10.06)

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