NHK朝ドラ「なつぞら」
北海道から好スタート
4月にスタートしたNHK朝ドラ「なつぞら」を、毎日、気持ちよく見続けている。
北海道十勝から始まったドラマの冒頭で、冒頭で18歳の奥原なつ(広瀬すず)が登場し、アニメーターとして歩んだ自分の半生の物語であることを見る側に伝えていた。
またスピッツの優しい歌声が流れるタイトルバックは、朝ドラとしては珍しいアニメ仕立てで、このドラマ全体を象徴する見事な演出だ。
前作の「まんぷく」では、主演の安藤さくらを延々と見せる映像と耳にキンキン響くドリカムの歌声が、正直言ってやや鬱陶しかった。今回は爽やかなオープニングで助かっている。
開始からしばらくは、なつ(子役の粟野咲莉)が十勝で暮らし始めた昭和21年が舞台だった。なつの父親の戦友で、彼女を連れて北海道に戻ってきた柴田剛男(藤木直人)、妻の富士子(松嶋菜々子)、富士子の父である泰樹(草刈正雄)、そして子供たちなど主な登場人物の顔見せにもなっていた。
中でも強い印象を与えたのが泰樹だ。初めはなつを邪魔者として扱うかのように見えたが、実はなつのことを親身に思うからこそだった。牛の世話をする大人たちを観察し、自分も一人前の働き手になろうとするなつに向かって泰樹が言う。
「ちゃんと働けば、必ずいつか、報われる日が来る。自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるもんだ。お前は、この数日、本当によく働いた。お前なら大丈夫だ。だから、もう無理に笑うことはない。謝ることもない。堂々と、ここで生きろ」
大森寿美男(朝ドラ「てるてる家族」など)の脚本と、草刈正雄の説得力のある演技ががっちりと噛み合った名場面だった。
現在、物語の時間は昭和30年。農業高校の3年生になったなつは演劇に取り組んだだけでなく、9歳の時に戦災で別れた兄との再会も果たした。さらにアニメの制作会社まで見学してきた。
やがて卒業すれば、1人で東京へと向かうはずのなつ。懐の深い豊かな自然と、おおらかで温かい人たちに囲まれた北海道時代が、もっと続いてほしいと思ってしまう。
この朝ドラは100作目であり、おかげで「ひまわり」の松嶋菜々子や「おしん」の小林綾子など歴代ヒロインの顔が並ぶ。安田顕、戸次重幸、音尾琢真といった北海道勢の好演も見ものだ。
とはいえ、主演の広瀬すずの存在に優るものはない。作り物ではない天性の明るさと無敵の笑顔は、朝ドラヒロインの真打ち登場と言えそうだ。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2019年05月11日)