「サ道」
ドラマの主役はサウナ
金曜の深夜、もうすぐ午前1時というタイミングで始まるのが「サ道」だ。「さどう」と読むが、茶道ではない。サウナも極めれば「道」になるのだ。とはいえ、お作法講座の番組ではない。れっきとしたドラマである。
ドラマなので主人公をはじめとする登場人物たちがいる。ナカタ(原田泰造)、偶然さん(三宅弘城)、そして若手のイケメン蒸し男(むしお、磯村勇斗)だ。普通のサウナ好きは「サウナー」、達人の域にある者は「プロサウナ―」と呼ばれるが、3人のプロサウナ― は同じ行きつけのサウナで知り合った。
毎回、彼らは上野のサウナ「北欧」で、のんびりサウナ談義をしている。その最中に「ところで、あそこに行ってきましたよ」とナカタが言い出し、画面には彼が一人で訪れた各地のサウナが現れる。いや、旅番組のように原田泰造がレポートするわけではない。ドラマの中の架空の人物、ナカタによるサウナ巡礼の様子が映し出されるのだ。
出かける先は実在のサウナばかりだ。たとえば、杉並の住宅街にあり遠赤外線サウナと屋外での外気浴が人気の「吉の湯」。水風呂がミニプールになっている錦糸町の「ニューウイング」。珍しいテントサウナが楽しめる平塚の「太古の湯 グリーンサウナ」。さらに、富士山の天然水を使った水風呂で知られ、“サウナの聖地”として崇められている静岡の「サウナしきじ」も登場した。いずれも魅力的で、すぐにでも行ってみたくなる。
ナカタはどこのサウナでも、サウナ・水風呂・休憩の「基本セット」を数回繰り返す。やがて、一種のトランス状態のような快感がやってくる。この状態は「整う」と表現されるが、整うことでしか得られない恍惚感がサウナの醍醐味だ。
つまりこの番組、ジャンルとしてはドラマだが、主役は原田泰造ではない。一軒一軒のサウナこそが真の主役であり主人公なのだ。現実の出来事や実在の人物を物語として描く「ドキュメンタリードラマ」という手法があるが、これはそのサウナ版だと言っていい。
架空の人物と実在の場所の見事なハイブリッド。それはヒットシリーズ「孤独のグルメ」などで磨かれてきた、テレ東深夜ドラマのお家芸だ。
(しんぶん赤旗「波動」2019.09.16)