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Channel: 碓井広義ブログ
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書評した本:西田浩 『秋吉敏子と渡辺貞夫』

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週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。


日本のジャズを牽引した二人の生ける伝説

西田 浩『秋吉敏子と渡辺貞夫』

新潮新書 778円

70年代はじめから80年代末にかけて、土曜深夜12時、FM東京で「渡辺貞夫 マイ・ディア・ライフ」が放送されていた。同名のオープニング曲が流れてくると、一瞬でありきたりの日常が違って見えてきた。ナベサダのジャズの力だ。

西田浩『秋吉敏子と渡辺貞夫』は、二人のレジェンドの歩みと戦後日本のジャズ史をたどることのできる好著だ。1929年、満州で生まれた秋吉敏子。戦後、親と移り住んだ別府のダンスホールでピアノを弾き始める。16歳だった。上京するのは48年のことだ。

一方、33年に宇都宮で生をうけた渡辺貞夫。16歳になった時、やはりダンスホールでクラリネットを吹いていた。高校3年で出会ったサックスを抱え、単身上京したのは卒業後だ。

本書を読むと、戦後の東京が「ジャズの街」だったことがリアルに伝わってくる。盛んだった進駐軍ジャズ。各所のジャズ喫茶やクラブ。アメリカの大物演奏家も多数来日した。二人がリンクするのは53年。秋吉のカルテットに、20歳の渡辺が加わったのだ。

3年後、バークリー音楽院に留学する秋吉に代わり、リーダーを務めたのは渡辺だった。本場アメリカで鍛えられた秋吉が、今度は渡辺の留学を助けた。そして、帰国した渡辺もまた多くの後輩たちを支援していく。二つの巨峰に連なる、日本ジャズ山脈の威容だ。

現在89歳になる秋吉敏子と86歳の渡辺貞夫。堂々の現役プレイヤーとして、伝説はまだまだ続いている。

(週刊新潮 2019年9月19日号)

 


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