ベテラン映画評論家が聞く
世界の映画人の貴重な証言
山田宏一:著『山田宏一映画インタビュー集
~映画はこうしてつくられる』
草思社 3960円
是枝裕和監督の『真実』が公開された。主演はカトリーヌ・ドヌーヴ、共演がジュリエット・ビノシュ。そんな作品を日本人監督がフランスで撮る。すごい時代になったものだ。
本書は今年81歳になる映画評論家による、世界の映画人へのインタビュー集だ。さすがに是枝監督は登場しないが、映画史を築いてきた面々が自身と映画を率直に語っている。たとえば、「ジャズと映画はわたしの二大情熱」だというルイ・マル監督。画期的だった、『死刑台のエレベーター』でのマイルス・デイヴィス起用について、「対位法的に音楽を使うこと、つまりイメージと対立しながら調和がとれている音楽」を目指した結果だと振り返る。
また、フランスからアメリカへと移ったのは、なんと『プリティ・ベビー』が撮りたかったからだった。しかも、「わたしの思いどおりの作品にはならなかった」と本音を明かす。同時に、アメリカ映画産業のシステムは「企画から何から、すべてが金になるか、ならないかで決まる」と一種の絶望感も隠さない。
女優陣では、『めまい』などで知られるキム・ノヴァクの話が印象的だ。「ハリウッドのスター・システムによってつくられたセックス・シンボルにすぎない」と決めつけられたこと。そういう目で見る監督には「自分を与え、作品に加担することなど、とてもできない」こと。一方、ヒッチコック監督は役づくりについて、「あなたがこの役をつくるんだ。あなたにしかできない役だ」と鼓舞してくれたと感謝する。演じる側から見た監督たちの生態と、それぞれ異なる現場の様子が目に浮かぶ。
他にも、監督ではクロード・ルルーシュやジャン=リュック・ゴダール、俳優のジャン=ポール・ベルモンドやシャルル・アズナヴールなどが並ぶ豪華キャストだ。著者の知識や見識、そして映画と映画人へのリスペクトのなせる業ともいうべき、貴重な証言の数々がここにある。
(週刊新潮 2019.10.24号)