カンヌ映画祭「審査員賞」受賞
会社の「先輩」が語る
ヤング是枝裕和
映画「そして父になる」が仏カンヌ映画祭で審査員賞を受賞した是枝裕和監督(50)がきのう凱旋帰国。時折、照れた表情で喜びを語った。
同映画祭に出品したのは3度目。04年は「誰も知らない」で主演の柳楽優弥(当時14)が最優秀男優賞に選ばれたが、監督本人が受賞するのは初めてである。
審査委員長のスティーブン・スピルバーグ高く評価。ある欧州のブックメーカーは、最高賞のパルムドールに最も近い作品と予想した。国内外に名をとどろかせ、脂が乗りまくりの是枝監督。どんな人物なのか。
87年に早大卒業後、番組制作会社「テレビマンユニオン」に参加した監督は現在も同社のメンバー。
先輩プロデューサーとして、新人時代から監督をよく知る上智大教授の碓井広義氏(メディア論)が言う。
「彼が新人ディレクターとして修業を積んでいた頃のこと。ある海外取材番組を担当していたのですが、どこかしっくりこない様子で鬱々としていました。聞けば、やりたい番組の希望は社会性のあるドキュメンタリー。
私は彼の企画をテレビ局に推薦し、当たったのが深夜のドキュメンタリー『NONFIX』です。福祉、教育、公害をテーマに立て続けに3本を作り上げた。なかでも長野の伊那小を取り上げた作品は足かけ3年、通って撮影した労作。今から22年前、バブルの余韻が残る社会の中、難題に切り込む異端の若者でした。
その後映画を撮り始め、フィールドを変えたとみられたりもしましたが、?アウトプットのやり方は多様性があっていい?という理念の持ち主。映画でもドラマでも、作品ごとに自分がふさわしいと思う表現法で伝える柔軟性を兼ね備えています」
昨年、脚本と監督を手がけた連ドラ「ゴーイングマイホーム」が大コケしたのは記憶に新しいが……。
「これは想定内の結果だったのではないでしょうか。是枝作品はドキュメンタリー的手法を用いているといわれますが、それは事実や現実をそのまま物語に取り込むのではなく、監督の脳内でろ過されて生み出すので、独特のリアルさがある。分かる人、伝わる人の琴線に触れればいいという思いも強い。
是枝監督はものづくりにおいて、おだやかにしたたかに自分を表現していく。20年間わが道を貫き、超エンタメでも超マニアックでもない、面白いポジションを確立した。オファーを出せば、いい役者が2つ返事で参加する監督のひとりでしょう」
世界のKOREEDAだ。
(日刊ゲンダイ 2013.05.29)