『恋はつづくよどこまでも』の上白石萌音は、
最強の「地方出身娘」!?
「女優姉妹」という系譜
姉が女優で、妹も女優。そんな「女優姉妹」というのは、世代によって挙がる名前は違うだろうが、以前から存在した。
たとえば、思い出せる範囲でさかのぼると、まず浮かんだのが倍賞千恵子・美津子の倍賞姉妹。次が、姉が真野(まや)響子、妹が眞野(まの)あずさ、という真野姉妹だ。
それから、石田ゆり子・ひかりの石田姉妹もいる。特に姉のゆり子は、『さよなら私』(14年、NHK)、『コントレール~罪と恋~』(16年、NHK)など、大人の女性の恋愛物で再ブレイク。同じ年の『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS)で演じた、「叔母の百合ちゃん」が秀逸だった。
そして最近の女優姉妹といえば、広瀬アリス・すずの広瀬姉妹ということになるだろう。こちらも以前は妹ばかりが目立っていたが、現在は姉のほうも自分のポジションを獲得している。
そんな女優姉妹というくくりに、ドーンと入ってきて注目を集めているのが、上白石萌音・萌歌の上白石姉妹だ。
妹の萌歌は、このところ『義母と娘のブルース』(18年、TBS)、『3年A組―今から皆さんは、人質です―』(19年、日本テレビ)、そして大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺』(19年、NHK)などで大活躍。姉の萌音は、現在放送中の『恋はつづくよどこまでも』(TBS)で主演を務めている。
広瀬姉妹も、うかうかしてはいられない。「アリス・すず」とはタイプの異なる「萌音・萌歌」だが、懐かしい表現をすれば、「赤丸急上昇」と言っていい。
そんな上白石姉妹、今回は姉の萌音について考察してみたい。
『恋はつづくよどこまでも』の上白石萌音
女子高生だった七瀬(萌音)が、地方から修学旅行でやって来た東京で、偶然出会った医師の天堂(佐藤健)に一目ぼれ。彼の近くに行こうと決意し、勉学にも励み、一生懸命努力してナースになった。現在は新人看護師として、天堂と同じ日浦総合病院の循環器内科に勤務している。
確かに医療ドラマの一種なのだが、メインはあくまでも「七瀬の恋」だ。かつて多くの映画やドラマが作られた『愛染かつら』以来、医師と看護師の恋物語は、いわば日本の「伝統芸」である。
1930年代に初映画化された『愛染かつら』まで戻らなくても、70年代の大ヒットドラマ『ありがとう』(TBS)の第2シリーズでは、看護婦(当時)の水前寺清子と医師の石坂浩二の、ほほえましい恋愛が展開されていた。
この『恋つづ』も、いわゆるラブコメであり、気楽に見ていられることがありがたい。
最初は歯牙にもかけなかった天堂だが、いつの間にか七瀬を憎からず思っている。いや、それどころか、最近はハグもキスも当たり前のように頻発しているのだ。よかったね、勇者!(笑)
萌音が演じる七瀬だが、看護師としては全然頼りないし、ミスは多いし、一種の「困ったちゃん」でもある。しかし、彼女がそこにいるだけで、みんなが笑顔になる。これはこれで貴重な才能であり、何より仕事に対して全身全霊、一生懸命なのがいい。
しかも、その一生懸命さは、人を好きになることでも発揮されている。5年間の片思いというのもすごいが、とにかく異常なほどの「一途(いちず)さ」で天堂を慕う。
それでいて本人は、恋愛に関して自信はないし、泣き虫だし、見方によっては結構ウザいかもしれないのだ。しかし、その鬱陶しさの一歩手前で、真っ直ぐな「健気(けなげ)さ」が七瀬を救っている。
一途で健気。見ている側も「こんな娘がいてもいいじゃないか」と思えてくる。看護師の新人としても、恋愛の初心者としても、七瀬を、つい応援したくなってくるのだ。
上白石萌音は、最強の「地方出身娘」!?
女優・上白石萌音に、最初に注目したのは、いつだろう。多分、初主演の映画『舞妓はレディ』(14年、周防正行監督)だったと思う。地方出身の女の子が、京都に出てきて、「舞妓さん」になることを目指すというお話だった。
あか抜けない、田舎っぽい少女だった主人公の西郷春子が、だんだん洗練されていく姿が、往年の名作ミュージカル『マイ・フェア・レディ』でオードリー・ヘプバーンが演じたイライザと重なった。地方出身の春子に、萌音という女優がドハマリだった。
次が映画『ちはやふる』(16年、小泉徳宏監督)で、広瀬すず演じるヒロイン、綾瀬千早の「かるた仲間」だった。都立瑞沢高校の「かるた部」の部員、大江奏の役だ。
都立なので、もちろん地方出身ではないが、和服好きで、おっとり屋さんで、古典おたくというキャラクターは、渋谷とか六本木とかを闊歩するタイプの「東京女子」とは、見事に一線を画していた。
そして、萌音の知名度を一気に上げたのが、同じ16年公開の劇場アニメ『君の名は。』(新海誠監督)だ。2次元のヒロイン・宮水三葉(みつは)に、声優として命を吹き込んだのは、萌音の演技力のなせる業だった。
三葉は、豊かな自然に囲まれた、岐阜県糸守町に暮らす女子高生で、古くからある神社の巫女。本当は東京に憧れているのだが、ままならない環境にある。まさに「地方出身娘」そのものであり、そのやわらかい方言もどこか懐かしく、萌音と三葉は完全に一体化していた。
さらに、もう1本、連ドラ初主演となった『ホクサイと飯さえあれば』(17年、毎日放送)も、忘れてはならない。
主人公は上京したばかりの超内向女子、ブンちゃんこと山田文子(あやこ)だ。ホクサイという名の「ぬいぐるみ人形」と一緒に、北千住のアパートで暮している。
無類の「ごはん好き」だが、食事は「お家(うち)ごはん」のみ。自炊料理の食材を近所の商店街で手に入れ、自分で作るのが一番楽しいし、最も嬉しいという女子大生だ。
しかも画面では、安くて、早くて、おいしい「ブンちゃん料理」を作るところは見せるのだが、食べているシーンは一切描かれないという、ちょっと変わった「DIYグルメドラマ」だった。
このブンが、これまた、何ともいい味の「地方出身娘」で、一般的にはコミュ障と言われそうな強い人見知りなのだが、自分の好きことには一生懸命で、一途で、健気でもあり、どこか『恋つづ』の七瀬につながっている。
現代劇だけじゃない、上白石萌音
3月3日、「ひな祭り」の放送では、七瀬に横恋慕した患者の上条(清原翔)が天堂を訴えたため、ずっと天堂が面倒を見てきた少女の手術に立ち会うことが出来なくなってしまった。
七瀬は訴えを取り下げる「交換条件」として、天堂から離れることを決意し、鹿児島(上白石姉妹の故郷)の小さな診療所で働き始める。
そして、ラストでは、やはりというか、待ってましたというか(笑)、天堂が現れ、七瀬を背後から抱きしめた。さあ、この恋物語も、いよいよ大詰めだ。
というわけで、上白石萌音の軌跡をたどってきたのだが、最後にもう少し・・・。
3月5日に、文化庁が主催する「芸術選奨」の2019年度受賞者が発表になった。
その「放送部門」の選考審査員を務めさせていただいたのだが、文部科学大臣賞は、ドラマ『スローな武士にしてくれ』(NHK)、『令和元年版 怪談牡丹燈籠』(同)などの脚本・演出を手掛けた、源孝志氏に贈られた。
この『怪談牡丹燈籠』で、萌音は、亡霊でありながら好きな男につきまとう「お露」を演じて、絶品だったのだ。一緒になることは出来ない運命だからこそ、萌音が見せてくれた女としての執念が哀しく、美しく、そして怖かった。今回の源孝志氏の受賞に、彼女が大きく貢献したと言っても過言ではない。
誰にも真似できない演技は現代劇だけじゃない、上白石萌音。『恋つづ』のゴールも気になるが、これからのさらなる活躍が大いに楽しみだ。