ハワイ島 2013
「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。
その8月編です。
2013年 テレビは何を映してきたか (8月編)
土曜ドラマ「七つの会議」 NHK
NHK土曜ドラマ「七つの会議」全4話が先週で完結した。舞台はある中堅電機メーカー。東山紀之演じる営業課長が企業ぐるみの不祥事隠蔽に巻き込まれていく。
問題となったのは強度不足の製品用ネジだ。乗り物の座席を固定するのに使われており、大事故を引き起こす危険性があった。しかしまともにリコールすれば、親会社や孫請けの零細企業も含めての大打撃だ。会社は一人の社員に不祥事の罪を着せようとする・・・。
このドラマが描いたのは「組織のダイナミクス(力学)」の怖さだ。個人の批判的精神が抑え込まれ、価値判断は停止し、組織の目的に向けて自己を超越してしまうのだ。隠蔽工作について社長(長塚京三)が言う。「過ちではない。決断だ」。
ドラマを見ていて、いくつもの現実の事件を思い出した。日本ハム牛肉偽装、三菱自動車リコール隠し、ミートホープ食肉偽装等々。その指揮をとった役員や不正と知りつつ従っていた社員は、会社と自分のことは考えても、社会に目を向けてはいなかった。
原作は「半沢直樹」と同じ池井戸潤の小説だが、企業が抱える危うさをあぶり出したこのドラマ、スポンサーを必要とする民放では作れなかったかもしれない。東山や吉田鋼太郎などの好演と、「ハゲタカ」の堀切園健太郎ディレクターの手堅い演出にも拍手だ。
(2013.08.06)
報道ドラマ「生きろ〜戦場に残した伝言〜」 TBS
終戦特番のシーズンに入った。そのうちの1本が4日に放送されたテレビ朝日の「二十四の瞳」だ。誰もが知っているタイトルだが、無難な名作のリメイクという“後ろ向き感”は否めない。他に企画はなかったのか。
その点、TBSが7日に流した報道ドラマ「生きろ〜戦場に残した伝言〜」は意欲作だった。主人公は島田叡(しまだあきら)。戦中最後の沖縄県知事として、住民の命を守ることに専念した実在の人物だ。
内務省の役人だった島田が沖縄に赴任したのは終戦の5ヶ月前。戦況の悪化に伴い、一般人の犠牲者は増える一方だった。島田はさまざまな規制を取り払い、また軍にも抗議しながら、1人でも多くの沖縄県民が生き延びる道を探っていく。
島田を演じたのは緒形直人だが、その生真面目な雰囲気は役柄にぴったりだ。島田に心酔した警察部長(的場浩司)と共に最後は行方不明となる。
そんな“伝説の知事”の人間像と行動を描くために、番組は島田と身近に接した関係者の証言や資料に基づくドラマとドキュメンタリーで構成されていた。沖縄の人々が本土防衛の「捨石」とされる過程を伝える上でも、この手法は有効だった。
「軍隊は住民を守らない。住民たちが沖縄戦で得た教訓だ」というナレーションを聞きながら、島田は現在のこの国をどう見るだろうと思った。
(2013.08.13)
NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」
日中戦争から太平洋戦争にかけて、百人以上の作家が戦場に送り込まれた。いわゆる従軍作家だ。林芙美子、吉川英治、丹羽文雄、石川達三、石川洋次郎、そして火野葦平。「麦と兵隊」などで知られる火野を軸に、作家と軍の関係を探ったのが、14日に放送されたNHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」である。
まず人物への迫り方と距離の取り方に感心した。火野や陸軍の馬淵逸雄中佐(メディア戦略担当)の内面にまで踏み込みつつ、あくまでも客観情報に徹している。また戦争によって栄誉を受けた火野(後に自殺)をいたずらに貶めることも、庇うこともしないのだ。
しかし、親族に向けて密かに伝えた戦場の現実、戦後に修正を加えた肉筆原稿の存在、兵士の言葉を借りた自戒の念などを丁寧に構成することで、「従軍作家・火野」ではなく「人間・火野葦平」の姿が見えてきた。
ナレーションは俳優の西島秀俊。番組では登場人物に関する心象コメントが最小限に抑えられており、全体の印象が無機質になる可能性もあった。そこを救っていたのが、人間味を感じさせる西島の声だ。伝えるのではなく、聴かせることで視聴者に考える余地を残した。
実は、見終わって火野以上に印象に残ったのが菊地寛だ。軍のメディア戦略と作家の大政翼賛運動のクロスポイントにいた男。次回作で、ぜひ。
(2013.08.20)
土曜ドラマ「夫婦善哉」 NHK
面白い題材を見つけてきたものだ。NHK土曜ドラマ「夫婦善哉」である。原作は、今年生誕百年を迎えた織田作之助が昭和15年に発表した小説だ。貧しい生まれながら売れっ子芸者となった蝶子(尾野真千子)が、化粧品問屋の長男坊・柳吉(森山未來)と出会い、惚れてしまう。さあ、そこから波乱万丈の“女の人生”が展開していくという物語だ。
このドラマを見ていてまず感じるのは大阪弁のもつ味わいだ。駆け落ちに失敗して、蝶子の稼ぎに頼っている柳吉。それなのに蝶子の貯金を新地で使い果たしてしまう。怒る蝶子に向かって「お前のほうがええ女や」と言い放ち、「堪忍してやあ」と逃げ回る柳吉が、なんとも憎めない、人間臭い男に見えてくるのは大阪弁の功徳だろう。
また、典型的な「ぼんぼん」で、困った男の代表選手のような柳吉を、「一人前の男に出世させたい」と頑張る蝶子。もちろん、このダメ男(森山、好演)は簡単に思い通りにならないが、それでも惚れ続ける健気さに泣ける。このあたり、尾野真千子の面目躍如だ。
このドラマには大阪の「うまいもん」がいくつも登場する。かつて豊田四郎監督作品で森繁久彌演じる柳吉が作っていた「山椒昆布」も出てきた。いわく言い難い男と女の関係と、大阪ならではの涙と笑いに、この名シーンは欠かせない。
(2013.08.27)
「日刊ゲンダイ」に連載している番組時評「TV見るべきものは!!」で
振り返る2013年のテレビ。
その8月編です。
2013年 テレビは何を映してきたか (8月編)
土曜ドラマ「七つの会議」 NHK
NHK土曜ドラマ「七つの会議」全4話が先週で完結した。舞台はある中堅電機メーカー。東山紀之演じる営業課長が企業ぐるみの不祥事隠蔽に巻き込まれていく。
問題となったのは強度不足の製品用ネジだ。乗り物の座席を固定するのに使われており、大事故を引き起こす危険性があった。しかしまともにリコールすれば、親会社や孫請けの零細企業も含めての大打撃だ。会社は一人の社員に不祥事の罪を着せようとする・・・。
このドラマが描いたのは「組織のダイナミクス(力学)」の怖さだ。個人の批判的精神が抑え込まれ、価値判断は停止し、組織の目的に向けて自己を超越してしまうのだ。隠蔽工作について社長(長塚京三)が言う。「過ちではない。決断だ」。
ドラマを見ていて、いくつもの現実の事件を思い出した。日本ハム牛肉偽装、三菱自動車リコール隠し、ミートホープ食肉偽装等々。その指揮をとった役員や不正と知りつつ従っていた社員は、会社と自分のことは考えても、社会に目を向けてはいなかった。
原作は「半沢直樹」と同じ池井戸潤の小説だが、企業が抱える危うさをあぶり出したこのドラマ、スポンサーを必要とする民放では作れなかったかもしれない。東山や吉田鋼太郎などの好演と、「ハゲタカ」の堀切園健太郎ディレクターの手堅い演出にも拍手だ。
(2013.08.06)
報道ドラマ「生きろ〜戦場に残した伝言〜」 TBS
終戦特番のシーズンに入った。そのうちの1本が4日に放送されたテレビ朝日の「二十四の瞳」だ。誰もが知っているタイトルだが、無難な名作のリメイクという“後ろ向き感”は否めない。他に企画はなかったのか。
その点、TBSが7日に流した報道ドラマ「生きろ〜戦場に残した伝言〜」は意欲作だった。主人公は島田叡(しまだあきら)。戦中最後の沖縄県知事として、住民の命を守ることに専念した実在の人物だ。
内務省の役人だった島田が沖縄に赴任したのは終戦の5ヶ月前。戦況の悪化に伴い、一般人の犠牲者は増える一方だった。島田はさまざまな規制を取り払い、また軍にも抗議しながら、1人でも多くの沖縄県民が生き延びる道を探っていく。
島田を演じたのは緒形直人だが、その生真面目な雰囲気は役柄にぴったりだ。島田に心酔した警察部長(的場浩司)と共に最後は行方不明となる。
そんな“伝説の知事”の人間像と行動を描くために、番組は島田と身近に接した関係者の証言や資料に基づくドラマとドキュメンタリーで構成されていた。沖縄の人々が本土防衛の「捨石」とされる過程を伝える上でも、この手法は有効だった。
「軍隊は住民を守らない。住民たちが沖縄戦で得た教訓だ」というナレーションを聞きながら、島田は現在のこの国をどう見るだろうと思った。
(2013.08.13)
NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」
日中戦争から太平洋戦争にかけて、百人以上の作家が戦場に送り込まれた。いわゆる従軍作家だ。林芙美子、吉川英治、丹羽文雄、石川達三、石川洋次郎、そして火野葦平。「麦と兵隊」などで知られる火野を軸に、作家と軍の関係を探ったのが、14日に放送されたNHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」である。
まず人物への迫り方と距離の取り方に感心した。火野や陸軍の馬淵逸雄中佐(メディア戦略担当)の内面にまで踏み込みつつ、あくまでも客観情報に徹している。また戦争によって栄誉を受けた火野(後に自殺)をいたずらに貶めることも、庇うこともしないのだ。
しかし、親族に向けて密かに伝えた戦場の現実、戦後に修正を加えた肉筆原稿の存在、兵士の言葉を借りた自戒の念などを丁寧に構成することで、「従軍作家・火野」ではなく「人間・火野葦平」の姿が見えてきた。
ナレーションは俳優の西島秀俊。番組では登場人物に関する心象コメントが最小限に抑えられており、全体の印象が無機質になる可能性もあった。そこを救っていたのが、人間味を感じさせる西島の声だ。伝えるのではなく、聴かせることで視聴者に考える余地を残した。
実は、見終わって火野以上に印象に残ったのが菊地寛だ。軍のメディア戦略と作家の大政翼賛運動のクロスポイントにいた男。次回作で、ぜひ。
(2013.08.20)
土曜ドラマ「夫婦善哉」 NHK
面白い題材を見つけてきたものだ。NHK土曜ドラマ「夫婦善哉」である。原作は、今年生誕百年を迎えた織田作之助が昭和15年に発表した小説だ。貧しい生まれながら売れっ子芸者となった蝶子(尾野真千子)が、化粧品問屋の長男坊・柳吉(森山未來)と出会い、惚れてしまう。さあ、そこから波乱万丈の“女の人生”が展開していくという物語だ。
このドラマを見ていてまず感じるのは大阪弁のもつ味わいだ。駆け落ちに失敗して、蝶子の稼ぎに頼っている柳吉。それなのに蝶子の貯金を新地で使い果たしてしまう。怒る蝶子に向かって「お前のほうがええ女や」と言い放ち、「堪忍してやあ」と逃げ回る柳吉が、なんとも憎めない、人間臭い男に見えてくるのは大阪弁の功徳だろう。
また、典型的な「ぼんぼん」で、困った男の代表選手のような柳吉を、「一人前の男に出世させたい」と頑張る蝶子。もちろん、このダメ男(森山、好演)は簡単に思い通りにならないが、それでも惚れ続ける健気さに泣ける。このあたり、尾野真千子の面目躍如だ。
このドラマには大阪の「うまいもん」がいくつも登場する。かつて豊田四郎監督作品で森繁久彌演じる柳吉が作っていた「山椒昆布」も出てきた。いわく言い難い男と女の関係と、大阪ならではの涙と笑いに、この名シーンは欠かせない。
(2013.08.27)