コロナ時代の寓話
緊急事態宣言が解除された。しかし世の中全体がすぐ元に戻るわけではない。それはテレビ界も同様だ。放送延期や制作中断の新作ドラマが急に復活するはずもない。
そんな中、4月にスタートし、5月末に無事ゴールしたのが「隕石家族」(東海テレビ制作・フジテレビ系)だ。しかも期せずして、コロナ禍に対する寓話(一種のたとえ話)となっていた。
そもそも設定がユニークだ。巨大隕石が地球に向っており、半年後に激突して人類は滅亡するというのだ。人々は動揺し、渋谷の街で暴動が起きたり、東京から地方へと疎開する人たちが現れる。
ドラマでは、都内で暮す普通の一家が描かれる。会社員の門倉和彦(キャイ~ン 天野ひろゆき)。妻の久美子(羽田美智子)。長女で教師の美咲(泉里香)。次女の結月(北香那)は受験生。そして和彦の母、正子(松原智恵子)の五人家族だ。
テレビのニュースでは毎日、「隕石情報」が流される。アナウンサーは「今日も隕石の進路に変化はありません」などと伝え、市民は人類滅亡を既定路線として受け入れている。そんな「非日常的日常」が可笑しい。
ところが突然、久美子が「私、好きな人と一緒に暮したいの!」と爆弾宣言をする。高校時代に憧れていたテニス部のキャプテン(中村俊介)。当時は思いを打ち明けられなかったが、今度こそ伝えたい。「今しかないと思うの。自分の気持ちに正直になりたい!」と主張するのだ。
実はこの後、他の家族も自分らしく生きようと動き出す。いわば「隕石効果」だ。毎回、誰かの「衝撃の告白」が炸裂する脚本は、大河ドラマ「花燃ゆ」などを手掛けてきた小松江里子である。
そして問題の巨大隕石だが、なんと途中でコースを変えてしまう。そうなると、短い余命を前提にした勝手な言動のツケが回ってきて大騒ぎだ。しかもその後、隕石が再び地球へと向きを変えるというシュールな展開が待っていた。まるで緊急事態宣言を解除した直後に、強烈な第二波が襲ってくるようなものだ。
非常時だからこそ、あらためて「日常」を大切にして生きようとするこの家族、ウイズ・コロナ時代のロールモデルになるかもしれない。
(しんぶん赤旗「波動」2020.06.08)