週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
瀬川裕司
『映画講義 ロマンティック・コメディ』
平凡社新書 1012円
新型コロナウイルスの影響もあり、家で映画の旧作を観る機会が増えている。手持ちのDVDだけでなく、NetflixやHuluなど動画配信サービスの利用も多い。
瀬川裕司『映画講義 ロマンティック・コメディ』には、愛好してきた作品が何本も登場する。たとえばウディ・アレン『アニー・ホール』、ハーバート・ロス『グッバイガール』、そしてポール・マザースキー『結婚しない女』などだ。
公開されたのはいずれも70年代後半。「ナーヴァス・ロマンス」もしくは「ナーヴァス・コメディ」と呼ぶそうだ。恋愛喜劇の通史ともいうべき本書を読むと、その歴史的展開における位置や意味がよくわかる。
作り手たちは過去の名作を参照したり引用したりしながら、物語のゴールが「結婚」や「恋愛の成就」ではない恋愛映画を目指していたのだ。『結婚しない女』のジル・クレイバーグや『アニー・ホール』のダイアン・キートンは、新たな女性像を体現するミューズ(女神)となった。
さらに本書では、「身分ちがいの恋」をはじめとする物語のパターンを分析した上で、優れたロマンティック・コメディのつくりかたを探っていく。出会い、障害の浮上、選択と決断などが盛り込まれた物語構成。複雑な感情を持つ生身の人間としてのキャラクターも重要なポイントとなる。
読み進めて、記憶に残る作品の多くが女性を主人公にしたものであることに気づいた。やはり男は「消耗品」なのかもしれない。
(週刊新潮 2020.05.28号)