「半沢直樹」テレビには映らない舞台裏
帰省ラッシュが起きなかった盆休み。ステイホームが浸透した今年の夏は、日曜夜9時を待ち焦がれる人も多かろう。TBS系列で放映されているドラマ『半沢直樹』。その舞台裏を覗くと、テレビには決して映らない人間模様が繰り広げられており……。
実に7年ぶりの続編である。前回の放送時に生まれた赤ん坊なら、すっかり小学生になっているほどの歳月が経った。さらには、感染症の影響でロケが中断。4月から放送の予定が、3カ月も遅れてのスタートを余儀なくされた。
ここまで焦らされたとなれば、作品の出来は”倍返し”を期待したいところ。蓋を開けてみれば、視聴率は5話連続で22%超えとすこぶる好調なのである。
「テレビ離れが進んでいる現代では、考えられない数字ですよ」
と話すのは、メディア文化評論家の碓井広義氏だ。
「前回の最終回で視聴率が40%超を記録したとはいえ、続編をやるなら期間を空けるにしてもせいぜい2年くらいが一般的です。それが、7年も放送がなかったのにこれだけの結果を出した。この間、世間ではそろそろ続編が始まるのではと、度々噂されて話題になってはいましたから、視聴者の飢餓感も限界を超えていたと思います」
何故ここまで続編の実現が遅れたのか。そのワケを辿ると、テレビの画面には映らない、”オトナの事情”が見えてくる。
さるスポーツ紙の芸能デスクが解説する。
「障壁となったのは、主演の堺雅人が所属する田辺エージェンシーの意向と聞いています。立て続けに続編をやってしまえば、堺本人に強烈なキャラクターの色がついてしまう。それで続編への出演を暫く固辞していたそうなんです。確かに役者というのは、いくら評判のいいドラマに出演できても固定観念を植え付けられたくない。米倉涼子も『ドクターX』を続けるのを嫌がっていましたし、松嶋菜々子も『家政婦のミタ』の続編は、まずOKしないというのが定説です」
いやしかし、それだけが理由であれば7年も間を置く必要はあったのかとの疑問も出よう。その実、前作で上役によって銀行から子会社へ出向させられる役を演じた堺自身、現場で実際の人間関係の軋轢を抱えていた。
TBS関係者が明かすには、
「堺さんと演出を務めるTBSの福澤克雄監督との間に、演技のことで溝が生まれていた。昔の役者と監督なんて、意見の食い違いで喧嘩して撮影がストップするくらい日常茶飯事ですが、この二人は今では少なくなった、筋を通す昔気質のタイプ。お互い忖度なしに良い作品を残したいという、プロ意識がぶつかり合い、和解に時間がかかったとか」
あの福澤諭吉の玄孫という福澤氏は、母校・慶應大ラグビー部時代には日本一になった経験を持つ生粋の体育会系。その風貌も相俟って、局内ではあのジャイアンにちなんで「ジャイさん」と呼ばれ畏怖されているのだ。
「ラガーマンである福澤さんは、男たちが戦う物語で力を発揮してきた。日本ドラマ界でも指折りの演出家で、手間やお金を惜しまない”攻めの演出”をしますから、メインの役者の演技にもガンガン指示することがあるのかもしれません。『半沢直樹』のみならず、『下町ロケット』『陸王』などの池井戸作品を手掛け、男たちがチームとして何かを成し遂げるストーリーと、本人のキャラの相性がいいのでしょう」(前出の碓井氏)
「タブー扱い」
TBSにおいて、池井戸潤作品のドラマは福澤氏が演出を担い、伊與田英徳氏がキャスティングや予算を差配している。このコンビは局の内外からヒットメーカーとして高く評価されているのだが、先のTBS関係者はこうも言う。
「この7年の間に、彼らは『下町ロケット』や『陸王』といったヒット作を世に送り出した。前作の放送から暫く時間が経ち、大河ドラマ『真田丸』でも評判をとった堺サイドが、そろそろ続編に出演してもいいかなという意向を持っても、タイミングが合わなかった。すったもんだの末、両者の折り合いがようやくついて、放映が決まったそうです」
2020年最初の定例会見で、TBSの佐々木卓社長は「今年は『半沢直樹』に尽きます」と語っていたが、悲願達成の背景には、現場レベルの”事情”に加えて、「芸能界のドン」の顔も見え隠れする。
別のTBS関係者は、
「続編の放送が延びた理由は、やはり田辺エージェンシーが、なかなか局にOKを出さなかったからと聞いています。出演交渉を続けるTBSは、その影響から堺と同じ事務所の夏目三久アナがMCを務める情報番組『あさチャン!』に、大ナタをふるえずにいたのです」
確かに、この番組は放送開始から6年経っても低迷を続け、視聴率は2~3%台と同時間帯におけるテレ東を除く民放のニュース・情報番組では最下位の座に甘んじている。
「本来なら番組改編に着手すべきところ、夏目アナは、所属事務所のトップ・田邉昭知社長の寵愛を受けており、下手に降板させたりすれば”芸能界のドン”の異名をとる田邉社長の逆鱗に触れてしまう。局内では『あさチャン!』の処遇は役員マターとされており、タブー扱いでした。どうにかして夏目の評判を覆したいと考える田邉さん側も、安易に『半沢』の続編を認めてしまえば、彼女が降板させられてしまう可能性がある。そんな両者の思惑が交錯し、半沢続編にここまで時間がかかったのです」(同)
これらの経緯について、まずは田辺エージェンシーに尋ねたところ、
「担当者が不在のためお答えできません」
当のTBSはといえば、
「番組制作過程については従来お答えしておりません」(広報部)
ちなみに、続編で夏目は半沢の勤務する銀行のイメージキャラクター役として出演していると聞けば、TBSの田邉社長への忖度ぶりは、まるで半沢ドラマで恒例となった土下座の姿を彷彿とさせる。
「夜の蝶に囲まれて」
ドラマに花を添える女優でいえば、半沢の妻役を演じる上戸彩の存在は欠かせない。これでもかと激しく火花を散らすバンカーたちの戦いが見所の番組で、唯一の清涼剤ともいえるのが半沢夫婦の掛け合い。私生活でも2児の母として”主婦業”に忙しい彼女は、出演にあたってTBSから三顧の礼で迎えられていたのであった。
先の芸能デスクによれば、
「結婚して活動が減っても、好感度の高い上戸はCMの露出も多く、数字が取れる女優ですからね。続編の放送に時間がかかってしまい、必ず結果を出さなければいけない局としては、彼女にどうしても出て欲しい。それで所属事務所のオスカーに好待遇を打診したようです」
具体的にはこうだ。
「子育て中であることを考慮して、撮影はTBSの緑山スタジオで週1回だけ。拘束時間は5時間ほどで、実働3~4時間という条件なのに、ギャラは1話につき400万円前後だそうです。かつて彼女と同じオスカーに所属していた先輩格の米倉涼子でさえ、ドラマでフル稼働して1話あたり450万円ほどですから、破格の待遇といっていいでしょう」(同)
前号でも本誌が報じたように、タレント流出が続く「オスカー帝国」にあって、事務所の看板女優であり続ける上戸の”恩返し”には、創業者の古賀誠一会長もホッと一息。胸を撫でおろしているに違いない。
一方、まさに続編の初回で、「施されたら施し返す。恩返しです!」という名言を口にして注目されるのが、半沢の天敵、大和田暁・元常務役の香川照之である。
従弟の市川猿之助が新たな敵役として出演して一層存在感を増すが、香川はクランクインしてなお、テレビ画面に映らぬところで意気揚々なんだとか。
「まだコロナで撮影が中断する前の3月頃、銀座の超高級クラブで香川さんを見かけましたが、夜の蝶に囲まれてご機嫌でしてね。酒が入って興がのってきたのか、このご時世なのに飛沫をまき散らしながら、ソファーの上で仁王立ちになったり踊ったりしていた。ドラマを彷彿とさせる”顔芸”も健在だったよ」(居合わせた客)
銀座のネオン街を根城にする事情通によれば、
「彼の銀座通いは有名ですが、ただお姉ちゃんと酒を飲むだけじゃない。超高級クラブでバッタリ顔を合わせたトヨタ自動車の豊田章男社長と意気投合。最後は抱き合うほどだったとか。それが縁となり、香川さんは同社が『トヨタイムズ』の名で展開するCMキャンペーンの顔となり、きっちり仕事を取ったそうです」
ドラマでは半沢の活躍によって常務から平取に降格させられた大和田も、夜の街では営業活動に余念がないということか。
「事実は小説よりも奇なり」と言うけれど、カメラが回らない世界でも旺盛な「半沢組」の人間模様を知れば、一層ドラマが楽しくなること請け合いなのだ。
(週刊新潮 2020.08.27号)