<碓井広義の放送時評>
「戦争童画集」
想像力で継承する戦争体験
終戦から75年を経た今年の夏も、NHKは戦争関連番組を何本も放送した。その中で強く印象に残ったのが、8月24日の「戦争童画集~75年目のショートストーリー」だ。戦争体験者の手記や聞き書きを基に作られた三つの物語で、案内役を吉永小百合が務めた。
第1話は、原爆投下直後の広島で肉親を捜す女性(長澤まさみ)が主人公の「あの日」(脚本・演出は山田洋次)。廃虚と化した町を象徴する美術セットで、長澤が体験を語っていく。
「もう人間ではない」と思わせるほど無残な人々。ようやく見つけた父親も、瓦礫(がれき)の下から母親を救いだせなかったことを嘆きながら翌月亡くなってしまう。それらを映像で描かず、朗読劇にしたことで、見る側は光景を思い浮かべようとする。受け身ではなく、自ら想像するからこそ伝わってくるものがあるのだ。長澤は「こんなにうまい女優だったのか」と見直したくなる迫真の演技だった。
第2話「こんばんは」も山田の脚本・演出。原爆で死にかけている孫娘のために「ミカンの缶詰」を探す老人(加藤健一)が登場した。女性(蒼井優)から缶詰をもらい、もはやミカンを食べる力のない孫に、その汁を一口飲ませる。空襲警報が鳴り、それが解除されて、あかりをつけたら孫は亡くなっていたと老人が語る場面が圧巻だ。「なんにも悪いことしとらん子供が、短い命をこうして終えてしもうてからのう」という言葉が忘れられない。
そして最後の第3話、沖縄戦を描いた「よっちゃん」は映画監督・松居大悟によるものだ。ひめゆり学徒を演じたのは黒島結菜。朗読劇とドラマを融合させ、絶望的な状況の中で兵士の看護にあたった女学生の体験を再現していた。麻酔もかけずに手足を切断される兵士。戦闘に巻き込まれて亡くなった級友。自決に失敗したことで生き延びた女性の「戦後」はどうだったのかと思いを巡らせた。
戦争体験を持つ人は年々減っていく。やがて「戦争を知らない子供たち」だけの国になることは確かだ。いや、だからこそ新聞は新聞なりの伝え方で、そしてテレビもテレビだからこその手法で、戦争と平和について考える機会を提供し続ける必要がある。この番組はそんな1本だった。
ただし、田中要次と橋本環奈がコロナ禍の父娘を演じたドラマ部分は不要だ。戦時と現代を繋(つな)ごうとしたのだろうが「想像」を邪魔する形となり残念。語りの力、言葉の力が生み出す「リアル」で十分だったのだ。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」2020.09.05)