「あまちゃん」ヒットの裏側に”マルサの女”
宮本信子の絶妙ナレーション
スタートから2カ月。NHKの朝ドラ「あまちゃん」は安定して20%超えの高視聴率である。
主演の能年玲奈や橋本愛、小泉今日子といった新旧アイドルの入り交じったキャスティング、登場人物が話す「じぇじぇじぇ」、芸達者なバイプレーヤー、軽快な主題歌……。いずれもイイ味を出して番組をもり立てている。そんなドラマのスパイスになっているのが、宮本信子(68)のナレーションだ。
「夏ばっぱ」ことヒロインの祖母・夏役を演じる宮本は、白髪のカツラをかぶり、ド田舎の浜のばあチャンそのもの。ベテラン女優ならではの演技力で見せ場をつくるが、それ以上に“語り”でも聞かせるのだ。
朝の忙しい時間帯に放送するドラマのため、制作側は「ながら視聴」に対応するべく、ナレーションで物語を解説するのが“お決まり”。音だけでも見る人が物語についていけるように牽引するのが目的だが、宮本の語りは従来のそれとはどこか違う。
上智大教授の碓井広義氏(メディア論)は「異例のナレーション」と
言い、こう続ける。
「多くの朝ドラは、局のアナウンサーが第三者的な『神の視点』で展開を補足する客観的なナレーションか、あるいは、ドラマの登場人物が回想としてナビゲートする、どちらかのパターンでした。
後者の場合、話し手が見聞きして感じたことは話せても、自分以外の感情は表現しないのが“お約束”。ところが、今回は、夏ばっぱ以外の登場人物の気持ちも代弁する型破りの語りも多く見受けられる。宮本さんが、神も役も超えた存在になっています」
21日放送でヒロインのアキが妄想するシーン。片思いの先輩に恋焦がれるあまり、夢の中で先輩から告白される様子が淡々と描かれたのだが、視聴者の心理を逆手にとり、宮本の語りは「もう先に言っちゃいますけど、これは夢です。いまさらびっくりしないと思いますが」とあえて説明し、笑いを誘う。
「ひとつ間違えれば、“でしゃばり過ぎ”と視聴者が違和感や不快感を抱く危険かつ挑戦的な技。そう感じさせないのは、脚本を担当する宮藤官九郎のなせる業ですが、宮本信子という女優の語りの力なくしては成立しないでしょう」(碓井広義氏)
同ドラマにハマっているテレビウオッチャーの話。
「海女の夏ばっぱは、副業でスナックの経営やウニ丼を製造販売しているが、それらの収入を一切合切、漏れずに申告しているのかといえば、疑わしい。“マルサの女”の宮本信子が脱税!? などと想像するのもまた楽しい(笑い)」
伊丹十三もあの世で「じぇじぇじぇ!?」。
(日刊ゲンダイ 2013.05.30)