“安心”を求めて自由を手放すリスク
池田清彦『自粛バカ~リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』
宝島社新書 981円
新型コロナウイルスとの日常も秋を迎えた。「一億総マスク化」の風景は見なれたが、どこかモヤモヤした気分を抱えたままだ。
池田清彦『自粛バカ リスクゼロ症候群に罹った日本人への処方箋』のおかげで、その「いやな感じ」の正体が判った。自分も含め日本人全体が思考停止に陥り、「自粛バカ」になっていたのである。
6月下旬に行われたNHKの世論調査では、「政府や自治体が外出を禁止したり、休業を強制したりできるようにする法律の改正が必要」と考える人が6割以上だったそうだ。著者によれば日本人は科学的な「安全」ではなく、心理的な「安心」を求めるからだという。
背後にあるのは「ゼロリスクへの信仰」だ。しかし、どんなリスクも絶対にゼロにはならない。ゼロリスクという安心のために自由を手放し、「強権的な措置を可能にする法改正」まで求める。そのリスクに気がつかないことの方が危険だ。
さらにマジョリティ(多数派)によるマイノリティ(少数派)への「いじめ」についても言及する。ここでも日本人特有の「察する文化」が機能し、大勢としての「空気」が決まればそれに従い、次に従わない者を排除する。いわゆる「自粛警察」が典型だ。
権力側にとってはコントロールしやすい国民なのだろう。だが、著者の言う「自己家畜化」に抗うことは可能だ。正しい情報をもとに自分の頭で考え、判断し、行動すること。本書はそのための強い味方となる。
(週刊新潮 2020年10月1日号)