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女性セブンで、橋田壽賀子脚本「おしん」について解説

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橋田壽賀子さんと おしんの生きた時代 『おしん』に込めた 「大切なもの」「女性の自立」

 

『渡る世間は鬼ばかり』(TBS系)、『おんな太閤記』(NHK)などいくつもの名ドラマを世に送り出した橋田壽賀子さん(享年95)が旅立った。市井に生きる女性に焦点を当てたドラマはお茶の間に愛され、なかでも大きなヒットとなったのが『おしん』(NHK連続テレビ小説)だろう。

平均視聴率は52.6%、最高視聴率は62.9%とテレビドラマ史上最高視聴率を誇り、日本国内のみならず海外60か国以上で放送された。なにより、1983年の放送から約40年が経ったいまでも作品の魅力は色褪せることはなく、まさに国境も時代も超えた名作。その名作に橋田さんはどんな「人生哲学」を込めたのか。

私たちに問いかけられる「大切なもの」

『おしん』が放送されたのはバブル景気直前。もはや戦後、ではもちろんなく、人々は好景気に浮かれていた。そんな時代になぜ、明治から戦中、戦後の苦労がブームになったのか。少女時代のおしん役を演じた小林綾子は橋田さんの言葉をこう振り返る。

「先生は、“高度成長の時代に、どんどん豊かになっているけれど、それとは逆に大切なものを忘れているのではないか”とおっしゃっていました。それを見つめ直すために『おしん』を書かれたそうです」。物にあふれ満たされているはずなのに、心が貧しくなっているのではないか、と危惧していたという。

お金を払えばなんでも手に入る時代だったからこそ『おしん』が生まれたと話すのは、メディア文化評論家の碓井広義さんだ。

「どこかでみな、“本当にこれがずっと続くのかな?”“これでいいのかな?”と無意識の不安感のようなものがあったのではないかと思います。この好景気があるのは誰のおかげか。明治、大正、昭和の時代に苦労を重ねてきた先人たちがあってこその“いま”であることを忘れていませんか?というメッセージだったのだと思います。

反戦・平和思想を強く持たれていた橋田先生ですから、戦争を引き起こす物質的な豊かさを追い求めるのではなく、心の豊かさ、心の平和の大切さを訴えていたのでしょう。誠実に生きるおしんの姿がそれを見せてくれていると思います」。

おしんは「女性の自立」の象徴だった

髪結いとして働いているときに出会った田倉と結婚したおしんだが、その後も苦労の連続。子供を抱えながら働く姿は、当時注目されていた“女性の社会進出”を体現していた。

「それは決して社会的になにかリーダーになるとかではなくて、一市民として生きる女性が堂々と自分自身を確立していくプロセスです。浮かれた時代に、女性というのはどーんと構えて地に足がついているんだ、ということも伝えたかったのだと感じます」(前出・碓井さん)。

男だらけの映画・脚本の世界にたったひとりで挑んだ橋田さん。苛烈なパワハラを受け、イヤというほど理不尽を味わったというが、「お茶くみをするために会社に入ったわけではない」と啖呵をきって10年勤めた松竹を辞めたとき、橋田さんの胸にあった信念こそ「私は、私の道を行くしかない」だったのだ。

バブル崩壊、不況、震災、そしてコロナ禍と、暗く先の見えない時代に何度でも『おしん』に励まされるのは、「命以外すべて失うことを何度経験しても、人のせいにせず、自分自身の力で立ち上がる。その姿に勇気をもらう」(前出・碓井さん)からではないか。

(女性セブン 2021年4月29日号)

 


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