向田邦子 関連本出版続く
人々描く感性に共感
脚本家で小説家の向田邦子が亡くなって今年で40年を迎え、エッセーや作品の言葉を通し、彼女の魅力を伝える本の出版が相次いでいる。
仕事や趣味にまい進し、周囲の人々を温かいまなざしで描いた姿勢が、時代を超えて共感を呼んでいる。
1929年、東京に生まれた向田。映画雑誌編集者などを経て放送作家となり、「寺内貫太郎一家」「阿修羅のごとく」など人気ドラマの脚本を多く手掛けた。
80年「思い出トランプ」収録の「花の名前」など短編3作で直木賞を受賞。81年8月、取材旅行中の台湾で飛行機事故に巻き込まれ、51歳の生涯を閉じた。
昨年3月、向田のエッセーをテーマ別に50編選んだ「向田邦子ベスト・エッセイ」(ちくま文庫)が刊行された。約1年を経て14刷、6万6000部を記録する人気ぶりだ。
八重洲ブックセンター石神井公園店(東京都練馬区)で同書を200冊以上販売した樋口舞さんは「発売直後から継続的に売れている。コロナ禍の外出自粛を背景に本を読みたいというニーズにも合っていたのではないか」と振り返る。
家族との思い出や大好きな食と旅の話題、脚本家の仕事などが豊かな感性でつづられている。収録作を選んだ末妹の向田和子さんは「みんなが思ってもなかなか言葉に置き換えられない感情を言い表している点が、読者が思わず共感し、面白いと感じる部分」と語る。
「戦中の貧しい時代でも、姉は手元にある物だけで遊びを作り出してくれた」。その視点は、エッセーの筆運びにも通底しているという。「どんな時代でも、工夫次第で毎日の生活を面白く乗り切れると教わった。姉の残した財産」と気持ちを込める。
メディア文化評論家の碓井広義さんは今年4月、向田作品のドラマやエッセー、小説から名言を選んだ「少しぐらいの嘘(うそ)は大目に 向田邦子の言葉」(新潮文庫)を刊行。全作品を読み返し、視点と表現が絶妙な約370のフレーズを選んだ。
「向田の言葉が古びないのは、人間の本質まで観察眼が到達しているから」と碓井さん。コロナ禍に触れ、「多くの人が自粛生活を機に自身の家庭をじっくり見つめ直した。向田が描き続けた家族の実相が今再浮上し、改めて注目されているように感じる」と話す。
(河北新報 2021.05.18)