日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!!」。
今回は、NHK土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」について書きました。
NHK「ロング・グッドバイ」
日本にマーロウを現出させようという
素敵な“暴挙”に拍手
浅野忠信主演のNHK土曜ドラマ「ロング・グッドバイ」が始まった。よもや「原作=レイモンド・チャンドラー」の文字を日本のドラマで見られるとは思わなかった。
一見、無国籍な街のたたずまい。丸みを帯びたデザインのクルマ。ずっしりと重そうなダイヤル式電話機。三つ揃えに帽子の男たち。そして、誰もが当たり前のように燻らすタバコの煙。思わず「うーん、いいねえ」とオトナの男は唸ってしまう。
細かい説明はないから、ここはどこ?時代はいつ?と思うかもしれない。原作のハードボイルド小説「長いお別れ」が米国で刊行されたのが1953(昭和28)年。敗戦からの復興を経て、日本でテレビ放送が始まったこの頃が舞台らしい。
ドラマの中にも「新聞社や出版社を複数抱え、テレビ局までつくった」という大物実業家(柄本明)が登場する。どうやら私立探偵の浅野はこの巨魁と対峙していくことになりそうだ。
初回では、女優のヒモのような男(綾野剛)と浅野の奇妙な友情が描かれる。やがて綾野は殺されてしまうが、それぞれの生き方や2人の微妙な距離感にも、どこか原作の雰囲気が漂っている。
演出は「ハゲタカ」「外事警察」の堀切園健太郎。音楽はその盟友で、「あまちゃん」の大友良英。日本にマーロウを現出させようという、素敵な“暴挙”に拍手だ。
(日刊ゲンダイ 2014.04.22)