先日、週刊新潮に掲載された、「朝ドラ」と「大河」の記事。
新潮社のセレクトメディア「Book Cafe 矢来町ぐるり 」にアップされました。
これで、私のコメントを含む全文を紹介できます。
NHK「朝ドラ」絶好調なのに
「大河」絶不調の明暗
NHK朝の連続テレビ小説『花子とアン』が好調だ。昨年の『あまちゃん』、『ごちそうさん』に続き、またまた高視聴率を叩き出している。一方、NHKのもう一つの看板番組大河ドラマはどうか。ここ数年、絶不調に喘いでいる。この明暗、どうして?
1961年に始まるNHK朝の連続テレビ小説は、半世紀以上にわたって、“朝ドラ”の名で親しまれてきた。視聴率は常に上位。中でも83〜84年放送の『おしん』は、平均視聴率52・6%という驚異的な数字を記録した。
その後、やや視聴率は低下したとはいえ、80年代は30%台、90年代も20%台をキープした。しかし、2000年代に入ると長い低迷期に突入する。03〜04年『てるてる家族』(18・9%)から、12年『梅ちゃん先生』(20・7%)まで10年近くも10%台が続く。
そんな中、朝ドラの復活を高らかに告げたのが、昨年放送のご存じ『あまちゃん』(20・6%)。
「これまでの朝ドラにはなかった異色作でした。“女性の一代記”という定石を破り、脚本の宮藤官九郎さんのユーモアを取り入れながら、わずか4年間という異例の短い物語でした」
とは、上智大学の碓井広義教授(メディア論)。
「さらに、主役の能年玲奈のほか、小泉今日子、宮本信子も物語の中心人物として活躍する、“トリプルヒロイン”のドラマでした。実際の出来事である東日本大震災も取り込んで、朝ドラの既成概念を崩しましたね。朝ドラを見なかった新しい視聴者を多数呼び込んだと思います」
その『あまちゃん』に続いて放送されたのが昨年度後半の杏主演『ごちそうさん』である。
「新しいファンに加えて、『あまちゃん』から離れていた固定客の視聴者も戻ってきたのではないでしょうか」(同)
視聴率は前作を上回る22・3%を稼ぎ出した。
「この作品は専業主婦が主人公だから、主婦層に受けが良かったのでしょう。浮気騒動や小姑のいじめがあったりして、朝ドラならぬ昼ドラ的な要素が女性に支持されたと思います」
とはライター兼イラストレーターの吉田潮氏。
「それに『あまちゃん』の流行以来、朝ドラは職場や学校で話題になり、見ないとついていけないのが嫌で見ている人もいる」
加えて『ごちそうさん』の人気を高めたのは、番組に登場する料理ではなかったか、と見るのは映画評論家の北川れい子氏である。
「私の周りの女性陣からも『あまちゃん』より良かったと評判です。出てきた料理を作ってみようとか、こんな料理の仕方があったんだとか、ためになるんですね。ドラマに実用的というのは変ですが、女の人って実利を求めるというか、お得感がありました」
■歴史上のスターの払底
『ごちそうさん』に続いてこの3月末からスタートした新しい連続テレビ小説『花子とアン』も好調だ。初回の視聴率は21・8%を記録し、平均でも20%台をキープしている。小説『赤毛のアン』を翻訳した村岡花子の半生を描いており、
「貧乏な話や女学校で苦労するエピソードもありますが、彼女がちゃんと家庭を築き、翻訳家として大成することを知っているので、安心して見ていられるんです」
と北川氏。
「主演の吉高由里子さんは個性的な女優さんです。映画の授賞式などでとんちんかんな受け答えをしたり、癖のある女優だなと思っていました。見ていてハラハラさせられます。ドラマは筋書きがあるはずなのに、何かやらかすんじゃないかと思ってしまう。そういう彼女が主演なので、退屈しないのかもしれませんね」
ともあれ、朝ドラは絶好調。一方、NHKにとって、もう一つの看板である大河ドラマの不振は頭の痛いところだ。
63年にスタートし、87年の『独眼竜政宗』では平均39・7%という記録を打ち立てた大河ドラマだったが、ここ数年は低迷が続いている。10年の『龍馬伝』18・7%、11年『江・姫たちの戦国』17・7%、12年『平清盛』12・0%、昨年の『八重の桜』14・6%と低空飛行。今年の『軍師官兵衛』も4月20日放送は16・2%だった。
「豊作続きの朝ドラの一方で、大河ドラマを見る動機がない、というのが正直な感想です」
とは先の碓井教授。
「黒田官兵衛は歴史好きしか知らないし、軍師はあくまでサポート役。視聴者からは距離がある人物です。むしろ、彼が仕えている織田信長や豊臣秀吉の方が、これからどうなるのか気になってしまう。題材がマニアックなんです。主役の岡田准一は悪い俳優だとは思いませんが、線が細く、大河ドラマの重さに比べるとどうしても軽く感じます。『八重の桜』も、同志社の創立者・新島嚢は知っていますが、ほとんどの人がその奥さんは知りません。『平清盛』にしても、清盛は日本人の歴史観では悪役のイメージが強すぎる。そんな悪役の話を1年間も見る気にはなれません」
大河ドラマは、主に源平、戦国、そして幕末などから素材を集めてきたが、
「もう、歴史上のスターが出尽くしてきた、という感は否めませんね」
こう言うのは作家の麻生千晶氏である。
「大河ドラマ2作目の『赤穂浪士』であれば、その後も大石内蔵助に焦点を当ててスピンオフ作品も作ることができます。でも、戦国武将や剣豪、幕末の英雄などでテーマとなりうる人物はそれほど多くない。NHKは大河からの引き際を間違えたと言えるでしょう」
大河ドラマそのものが時代と合わなくなった、と言うのは、映画評論家の白井佳夫氏である。
「以前、私が携わっていた徳島テレビ祭に朝ドラのプロデューサーを招いた時、彼は“現代の忙しい人々が意識を集中できるのは、せいぜい15分”と言っていましたが、正にその通り。大河は実在の人物のドラマを45分間、しかも1年間にわたって見なければいけない。15分しか集中できない今の日本人にはとても無理」
日曜日午後8時になると多くの人々がNHKにチャンネルを合わせる。そんな時代はとうに過ぎ去ったのかもしれない。
(週刊新潮 2014.05.01号)