5月15日といえば、80年以上たっても「5・15事件」。
1932(昭和7)年の5月15日に起きた、海軍の青年将校たちによる反乱事件ですね。
いや、反乱とかクーデターというより暗殺テロだ、という見方もあります。
大規模なテロといえば、「9・11」がすぐ思い浮かびますが、最近読んだ貫井徳郎さんの小説『私に似た人』には、「小口テロ」と呼ばれる小規模で局地的なテロが登場していました。
大口も小口も、テロは願い下げですが。
閑話休題(お話、変わって)。
3月から、ビジネスジャーナルでの連載、碓井広義「ひとことでは言えない」が始まったのですが、今月分では、現在放送中の連続ドラマを考察しています。
刑事モノや池井戸モノが乱立…春の連ドラ
今から間に合う、大人が見てもいいドラマは?
全体的に低調だった前クール(1〜3月期)の連続テレビドラマ、いわゆる「冬ドラマ」に比べて、今クール(4〜6月期)の「春ドラマ」には活気がある。少なくとも「大人が見る(見てもいい)ドラマ」があるからだ。
●「池井戸ドラマ」の同時多発
今クールは、『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)と『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)という、池井戸潤原作のドラマが2本登場した。これはもちろん昨年放送された池井戸氏原作の『半沢直樹』の大ヒットを受けてのことだ。
池井戸作品には企業小説と呼ばれるものが多い。しかし、主軸はあくまでも企業内の人間模様であり、そこで展開される人間ドラマである。また、山あり谷ありの起伏に富んだ物語構成と、後味(読後感)の良さも池井戸作品の持ち味だ。その意味でドラマとの相性がとてもいい。
まず、『花咲』は『半沢』を想起させる銀行ドラマだ。問題を抱えた支店を指導する「臨店班」に所属する女性行員・舞(杏)が、毎回、行く先々で問題解決のために奔走する。彼女の最大の魅力は、たとえ相手が上司であれ顧客であれ、間違ったことや筋の通らぬことに関しては一歩も引かないことだ。『花咲』は、そんなヒロインが言いたいことを言うガチンコ勝負ドラマなのだ。
もしもビジネスパーソンが、仕事場で「言いたいことを言う」を実践したら大変なことになるだろう。だからこそ何でも口にする舞は、危うくもあり、痛快でもある。ただし、良くも悪くも『半沢』のような重厚感や奥行きを持つドラマではない。ライト感覚で楽しめる勧善懲悪物語だ。基本的には一話完結なので、今から見始めても問題ない。
一方の『ルーズヴェルト・ゲーム』は、中堅の精密機器メーカーが舞台だ。大手の下請けとして成り立っていることもあり、経済情勢だけでなく、発注元の思惑にも揺さぶられている。社長の細川(唐沢寿明)が、いかにして苦境を脱していくかが見どころだ。
このドラマの特色として、企業ドラマであると同時に、野球ドラマでもあることが挙げられる。社会人野球がきっちり描かれるドラマというのは珍しく、異色のスポーツ物にもなっている。会社のお荷物的な存在である野球部が、会社と同様、「逆転勝利」をつかむことができるのか。こちらは、放送が4月末からという遅いスタートだったこともあり、今からでも十分追いつける。
●乱立「刑事ドラマ」の群れを抜け出すのは?
今クールの特徴としては、刑事ドラマが8本も並び、まさに乱立状態となった点も挙げられる。注目は、木曜夜9時枠で裏表となっている2本である。
1本目は『MOZU〜百舌(もず)の叫ぶ夜〜』(TBS系)だ。銀座界隈で爆弾テロが起き、犠牲者の中に公安部特務第一課の倉木(西島秀俊)の妻・千尋(石田ゆり子)がいた。
妻の死の謎を解くべく動き出す倉木、現場に居合わせたという公安の女性刑事(真木よう子)、公安を目の敵にする捜査一課の大杉(香川照之)と役者は揃っている。一昨年の『ダブルフェイス』と同様、WOWOWとの共同制作であり、演技も映像も優れた海外ドラマのような本格派といっていい。
ただ、ストーリー展開としては、話が複雑すぎるかもしれない。テロ組織vs.警察、刑事部vs.公安部、西島vs.香川、テロ組織vs.テロリストなどいくつもの対立軸があり、重層的に絡み合うためだ。
もともと逢坂剛の原作小説自体が、決して読みやすいものではない。むしろ読者がその迷路のような“見通しの悪さ”を楽しむタイプの作品なのだ。
小説の場合は、必要なら前に戻って読み返せばいい。筋立てや人間関係の確認もできる。しかし、テレビドラマはそれができず、前にしか進めない。途中でついていけなくなれば、リタイヤする視聴者も出てくるだろう。これは、視聴者のせいではない。脚本が、広げた風呂敷を十分に整理できていないのだ。
それでも、このドラマには、見ないではいられない魅力がある。人間の善と悪、表と裏、日常では隠された業(ごう)や性(さが)のようなものまでが描かれているからだ。西島秀俊の肉体美を披露するためか、やたらと裸になるシーンが多い演出は困りものだが、大人が見てもいい1本であることは確かだ。
そして、同じ木曜夜9時枠で、同じ刑事ドラマという真っ向勝負となったのが、小栗旬主演の『BORDER』(テレビ朝日系)である。実は放送開始前、「死者と対話できる特殊能力をもつ刑事」のドラマと聞いて、やや引いていた。
しかし、事件の被害者である死者たちが、結果的に主人公を通じてその無念を晴らすというスタイルは、意外や結構快感だったりする。いわば「突拍子もない話」であるこのドラマを成立させているのは、原案だけでなく、脚本も手掛ける直木賞作家・金城一紀のお手柄だろう。一話完結形式でもあり、『MOZU』のテイストが自分に合わないと思う人にはお薦めだ。
(ビジネスジャーナル 2014.05.12)
ビジネスジャーナル連載
碓井広義「ひとことでは言えない」
http://biz-journal.jp/series/cat271/