ビジネスジャーナルに連載している、碓井広義「ひとことでは言えない」。
http://biz-journal.jp/series/cat271/
今回は、来年1月からの導入が決まった「タイムシフト視聴率(録画再生率)」について書きました。
タイムシフト視聴率導入の衝撃
テレビはどう変わる?
良質な番組が救われる期待も
●視聴スタイルの変化
日本で唯一のテレビ視聴率調査会社であるビデオリサーチが7月、「タイムシフト視聴率(録画再生率)」を初めて公表した。来年1月からは正式な運用が予定されていることも伝えられた。
現在、視聴率と呼ばれているのは、番組が放送されている時間にどれだけの人が見ていたのかを測る「リアルタイム視聴率」だ。
もう半世紀近くも使われており、『紅白歌合戦』(NHK)が50%を割ったとか、『HERO』(フジテレビ系)が20%を超えたなどといわれるのは、すべてリアルタイム視聴率の数字だった。
しかし現在、視聴者がテレビを見るスタイルは一様ではない。特に地デジ放送になったことで、以前よりも録画で見る人が明らかに増えたとみられている。
現在主流の地デジ対応テレビは、電子番組表が画面上に表示されワンプッシュで録画予約できるものが多く、大容量ハードディスクも普及している。
さらに、かつては録画機で録画した画質は粗さが目立ったが、地デジ対応テレビではリアルタイムで見るのと変わらない画質で楽しむこともできる。
「自分の都合」に合わせて、リアルタイム視聴と変わらない「高画質」で、「自分が選んだ番組」を見ることができる快適さは誰も否定できない。
ところが、テレビ局側はあくまでも「リアルタイム視聴」を前提とした長年のビジネスモデルを堅持してきた。「番組の放送時間を広告主に売る」というビジネスにとって、そのほうが都合がよかったためだ。
それは録画して見ている視聴者を「頭数」から外した番組づくりであり、「タイムシフト視聴」という視聴者(=スポンサー企業から見れば消費者)の動向を無視してきたことになる。
●タイムシフト視聴率とは
7月の発表では、ようやく実用段階に入ったとのことだが、本来はもっと早く導入されてもおかしくなかった。ビデオリサーチがタイムシフト視聴率を測定する機器の試作品を公開したのは2009年、東京国際フォーラムで開かれた自社の催し「データビジョン2009」だった。
この新たな測定器は、サンプルモニターがHDDに録画したものを視聴する状況を、番組の“音声”によって認識し、測定する。CMを飛ばしたり、興味のあるシーンを繰り返し見たりする行動をすべて把握できるのだ。
試作品の発表から5年。少なくとも今後は「リアルタイム」と「タイムシフト」両方の数字が併用されることになっていくだろう。
その場合、“タイムシフト先進国”である米国の状況が参考になる。米国では07年にタイムシフトを視聴率のレーティングが導入され、現在の視聴率指標は以下の3つだ。
(1)LIVE:リアルタイム番組視聴率
(2)P3:リアルタイム番組視聴率+3日目までのタイムシフト
番組視聴率
(3)C3:リアルタイムでのCM時間の視聴率+3日目までのタイム
シフト視聴によるCM時間の視聴率
番組編成の指標としてはP3を、営業の指標としてはC3を使用している。ちなみに、今回のビデオリサーチのタイムシフト視聴率調査では、米国流の3日間ではなく、7日以内の再生率を測定していた。
●タイムシフト視聴率への期待
3月31日から3カ月間に放送された番組で、公表されたタイムシフト視聴率の上位に並んだのは、『ルーズヴェルト・ゲーム』(TBS系)や『続・最後から二番目の恋』(フジテレビ系)などドラマが多かった。
連続ドラマは見逃すと続きがわからなくなるため、録画する視聴者が多いといわれていた。この結果はある意味、予想どおりだ。
当然、タイムシフト視聴率はドラマに力を入れている局にプラスに働く傾向にある。
リアルタイムもタイムシフトも、見てくれた人の数だけを測るものであり、あくまでも放送ビジネスのための数字だ。番組の内容や質や影響を示してくれるわけではない。
とはいえ、場合によっては、中身は良質で意義もあるが視聴率は振るわないといった番組が、タイムシフト視聴率で救われる事例が出てくるかもしれない。
リアルタイム視聴率という、たった1つの指標だけで番組の価値や生殺与奪が決められがちな状態が、少しでも改善されることを期待したい。
(ビジネスジャーナル 2014.09.08)