朝日新聞が「ニュースQ3」の枠で、日本テレビの「女子アナ内定取り消し問題」を取り上げました。
この記事の中で、コメントしています。
女性アナの内定取り消し
TV局が求める「清廉性」って?
東京・銀座のクラブでホステスのアルバイトをした経験を理由に、アナウンサーの内定を取り消された女性が日本テレビを訴えた。はたして、裁判の行方は。
■銀座のクラブ バイトしたら
「ホステスに清廉性はないのか」「女子アナは清廉なのか」――。東京地裁で初弁論があった11月14日、インターネットのツイッター上には日テレへの批判が巻き起こった。
原因は、提訴した東洋英和女学院大4年の笹崎里菜さんに日テレが送ったとされる人事局長名の文書。「銀座のクラブのホステス歴は、アナウンサーに求められる清廉性にふさわしくない」
訴えによると、笹崎さんは昨年9月に来春の採用が内定。だが今年3月、内定以前に母の知人の紹介で銀座のクラブでバイトした経験を伝えると、内定を取り消された。採用過程で申告しなかったのが「虚偽申告にあたる」とされた。笹崎さんは来春の入社を求めている。
「内定と就職は、婚約と結婚の関係に似ている。合理的理由なく取り消せば法的責任が生じる」と、民事のベテラン裁判官は話す。
■過去の訴訟は判断分かれる
内定をめぐっては、過去にも裁判で争われている。「陰気な印象だった」との理由で内定を取り消された大学生が訴えた裁判で最高裁は1979年、取り消しを無効として会社側に賠償を命じた。一方、デモに参加して逮捕された経歴が内定後に分かったケースで最高裁は80年、内定取り消しを有効とした。
これらの判決から、内定の取り消しは、①内定時に知りえなかった事実が後で判明し、②社会通念上相当と認められる場合のみ有効、との基準が定着した。
労働問題に詳しい吉村雄二郎弁護士は今回の訴訟について、ブログで「総合的に見て内定取り消しは認められない」としながら、「日テレ側に全く合理性がないわけではない」とも書いた。
裁判所がアナウンサーを特殊な職業だと認めた例があるからだ。アナウンサーの女性が別の部署への配転の無効確認を求めた仮処分の申し立てで、東京地裁は76年、「人間的な温かさや信頼感、各種のタレント性を必要とする専門職」との決定を出した。吉村弁護士は「一般の職業に比べれば、ホステス歴をふさわしくないとする余地はある。結局、女子アナとは、ホステスとは、という仕事の評価の問題だ」と語る。
■「タレント化を象徴」
「一口にホステスと言っても、最近はコンビニのバイト感覚で気軽に来る学生も多い」。クラブやスナックの業界団体「全国社交飲食業生活衛生同業組合連合会」の猪俣伸介事務局長(74)はこう語る。風俗営業法の管轄下にある業界が、偏見を持たれる構図は昔からあるとも。
今回の訴訟について、テレビプロデューサーの経験もある碓井広義・上智大教授(メディア論)は「女子アナが、社内タレント化していることを象徴する出来事だ」と指摘する。1980年代ごろから女子アナのタレント化が加速したという。月給で使える半面、スキャンダルがあれば局がダメージを受ける。特に日テレは女子アナの過去の私的な写真が流出した事件があり、今回もそれが影響したと見る。
さて、勝訴したら笹崎さんは女子アナになれるのか。元ホステスで作家の室井佑月さんは「職業に貴賤(きせん)はなく、勇気をもって訴えたのは当然。勝ったら堂々と日テレに入ればいい。もし居づらいとしても、結果として名前が知られた彼女が活躍できる場はいくらでもある」とエールを送る。
ちなみに、清廉とは、広辞苑によれば「心が清くて私欲のないこと」だという。(千葉雄高)
(朝日新聞 2014.12.02)