北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、道内各局と東京キー局、それぞれの原発報道について
書きました。
テレビの原発報道
道内各局に見る矜持と使命感
メディア総合研究所が隔月で発行している専門誌「放送レポート」。 その最新号(7月1日号)で、ジャーナリスト・小田桐誠さんの連載「検証・原発報道ー北海道から〜民放四局の六〇〇日〜」が完結した。 2011年から今年にかけて、道内の放送局が原発に関して、いつ、どの番組で、何を伝えたのか。それらを確認しながらまとめた労作である。
全3回のリポートから読み取れるのは、道内各局が原発問題を繰り返し継続的に扱ってきたことだ。例えば、北海道放送(HBC)は福島第1原発の事故発生からわずか1ヵ月後の2011年4月に、「NEWS1」(現・北海道NEWS1)で特集「海の向こうの原発に不安…大間原発のいま」を組んだ。同年6月には北海道文化放送(UHB)が「スーパーニュース」の中で、かつて高レベル放射性廃棄物貯蔵・研究施設が計画され、現在は幌延深地層研究センターがある宗谷管内幌延町からリポートを展開した。
2012年8月、北海道テレビ(HTB)はニュースで脱原発の動きを「デモに駆り立てられる市民」とのタイトルで伝えている。また、札幌テレビ(STV)は今年1月放送の「どさんこワイド179」のニュースの中で幌延町の特集をした。もちろん、北海道は実際に原発を抱える地域であるが、それ以上に報道メディアとしての矜持と使命感が見てとれる。そして、こうした道内各局の原発報道は現在も継続中なのだ。
一方、ここ1年ほど、東京キー局による原発報道がいかに不活発だったことか。特に原発再稼働に積極的な安倍政権になってからは、あたかも福島の事故を忘れたのごとくだ。そんな中、6月22日に放送されたTBS-HBC「報道特集」の「原発輸出へ日本が突き進む理由・東欧の原発廃墟を行く」に注目したい。
原発を成長戦略の中の「インフラ輸出」の目玉とする安倍首相が、G8サミット出席に先立ち、ポーランドなど東欧4か国に売り込みをかけたのだ。これまで商業用原発が存在しなかったポーランドの市民は、「福島の失敗があるのに、日本の総理は原発を押しつけるのか」と不信感を隠さない。
さらに金平茂紀キャスターがポーランド北部の町を訪ね、かつて建設を進めていた原発がチェルノブイリ事故を受けて中止となった場所に立つ。現在は廃墟だが、今後同じ場所に原発が作られる可能性が出てきたという。「事故の収束もできていない国が原発輸出に踏み出すことが妥当なのか。その根源的議論が置き去りにされている」という金平の言葉は、 全てのテレビジャーナリズムに向けられたものでもある。
(北海道新聞 2013.07.01)