新宿鮫こと鮫島とも、ずいぶん長いつき合いになります。
大沢在昌さんの「新宿鮫」シリーズは、新刊が出るたびに一気読みで、しかも毎回、ページが残り少なくなると寂しくなって、ふと読むスピードを落としたりして・・・。
そういう本は、嬉しいですよね。
「新宿鮫」の新作、ほんと読みたいなあ。
以下は、「週刊新潮」に寄稿した書評です。
大沢在昌
『鮫島の貌(かお)~新宿鮫短編集』
光文社文庫 605円
シリーズ第1作目の『新宿鮫』が、カッパ・ノベルスとして世に出たのは1990年。以来、『絆回廊』まで10作を数える。本書は初の短編集であり、キレのいいサイドストーリーが10編収録されている。
鮫島が署内で信頼する数少ない一人、上司の桃井を主人公にした『区立花園公園』。鮫島の恋人で、人気ロックバンドのボーカル・晶が、ある事件と鮫島の素顔を語る『似た者どうし』。また、人気コミックの主人公が登場し、鮫島と絡む異色作『幼な馴染み』もある。
中でも愛読者に嬉しいのが巻末の『霊園の男』だ。9作目の『狼花』で鮮烈な印象を残した仙田をめぐる後日譚。読後、次の新作長編が読みたくなってくる。
金 彦鎬(キム オノ):著、舘野 哲:訳
『本でつくるユートピア~韓国出版 情熱の現代史』
北沢図書出版 2700円
著者が出版社を興したのは70年代半ばだ。その40年に及ぶ出版人としての歩みが一冊になった。文化運動・社会運動としての出版を目指す著者は、営業停止処分も恐れない。韓国の作家たちはもちろん、堀田善衛や塩野七生などの作品の翻訳出版も大きな功績だ。
小島慶子
『わたしの神様』
幻冬舎 1620円
著者は元TBSアナウンサー。初挑戦となる小説の主人公は、「私にはブスの気持ちがわからない」と言い切る人気女子アナである。誰よりもスポットを浴びようと競い合い、同時に地位と権力を求めてうごめく男たちとも対峙する。ドラマでは描けないリアル感だ。
マイルス・デイヴィス、クインシー・トウループ:著、中山康樹:訳
『マイルス・デイヴィス自伝』
シンコーミュージック・エンタテインメント 3240円
本書がアメリカで刊行されたのは89年。翻訳版は過去3回出版されている。「まあ、聞いてくれ。オレの人生で最高の瞬間は」という書き出しだけで、一気にマイルスの世界へ。訳者による見直しと共に、これまで使用できなかった貴重な写真も多数掲載されている。
(新潮書評 2015.06.18号)