ビジネスジャーナルに連載しているメディア時評、碓井広義「ひとことでは言えない」。
今回は、選奨委員を務めているギャラクシー賞「CM部門」の受賞作について書きました。
何が綾野剛を“励ました”のか!?
放送批評懇談会が主催する「ギャラクシー賞」。毎年4月1日から翌年3月31日を審査対象期間として、年間の賞を選び出している。今月2日に第52回ギャラクシー賞の贈賞式が行われ、テレビ、ラジオ、CM、報道活動の各部門の大賞、優秀賞などが発表された。
筆者はそのCM部門の選奨委員を務めている。毎月、CM委員会が開催され、委員たちが注目するCMを挙げ、全員で意見交換を行う。これを1年間続け、最終的に「今年の1本」を決めていく。全体として膨大な量のCMの中から受賞作を選ぶことは、大変で面白く、また難しくて楽しい作業だ。
今年もまた、時代や社会の実相を映し出しながら、コマーシャルとしての役割もしっかり果たした秀作にスポットが当たった。
<大賞>
●東海テレビ放送 公共キャンペーン・スポット「震災から3年~伝えつづける~」
東日本大震災を伝え続けているのは地元局だけではない。被災地のメディアではないからこそ、何を、いかに伝えるかに悩みつつ、でも決して手を止めていない。
2011年3月11日に起きた大災害。だが、時間の経過と共に、被災地以外に住む人たちの関心や記憶が薄れてきている。その一方で、「忘れてはいけない」という思いから、今も被災者への取材を続ける記者たちがいる。もちろん、それ自体はジャーナリズムの使命として、当たり前に見えるかもしれない。
しかし、実は記者たちも、被災者に対する微妙な取材に、迷ったり悩んだりしている。そんな葛藤する姿を伝えることで、地に足のついた、リアルな公共キャンペーンとなったのが本作だ。「記者は、忘れかけていた。取材される側の気持ちを」というコピーは、視聴者の気持ちも揺り動かした。
<優秀賞>
●インテリジェンス DODA シリーズ「チャップリン×綾野剛篇」「キング牧師×綾野剛篇」
その演説は映画「独裁者」の終盤に置かれている。約3分半のワンカットだ。 ファシズムの国の独裁者と間違われた床屋(チャップリン)が、兵士たちに向かって呼びかける。「君たちは機械ではない。家畜でもない。人間なんだ!」と。
CMには現在の仕事と将来に迷いを抱えた青年(綾野剛)が登場する。鏡に映る自分を見つめた時、チャップリンの声が彼を励ます。 「君たちには力がある。人生を自由で美しく、素晴らしい冒険に変える力が!」。
「キング牧師」編も、「友よ。今こそ、夢を見よう」で始まるメッセージが強烈なインパクトで迫ってくる。姿こそ見えないが、肉声の背後にある彼らの思想と行動、つまり生き方を想起するからだ。
●TOTO NEOREST ネオレスト「菌の親子篇」
悩める人々に福音をもたらした世紀の発明品、温水洗浄トイレ。1982年の登場以来、ひたすら進化を続け、新製品では見えない汚れや菌を分解・除菌し、その発生さえ抑制するという。
その性能を伝えるために、トイレに生息する「菌の親子」、ビッグベンとリトルベンを登場させた設定が秀逸だ。画面の基調となる白に、2人の黒いコスチュームが美しいコントラストを見せる。
また何より、除菌水の威力を嘆く息子菌(寺田心)がカワイイ。リトルベンの「悲しくなるほど清潔だね」のせりふに、つい微笑んでしまう。美しさと愛らしさ、そしてユーモアの勝利である。
●日清食品ホールディングス カップヌードル シリーズ「現代のサムライ篇」「壁ドン篇」
このシリーズ、ダチョウ倶楽部が出演した「本音と建前編」もそうだったが、外国人の目で見たニッポンが新鮮で面白い。
マンガやアイドルに入れ込む日本の若者たちの姿を見せることで、日本人の創造性やオリジナリティを再認識させてくれる。特に、サムライやフジヤマといった、日本のイメージのステレオタイプを逆手にとった発想と表現が見事だ。
「この国の若者は、アイドルとヌードルが好きです」のナレーションも、エネルギッシュな音楽も、ピタリと決まっている。
<選奨>
●NTTドコモ スマートライフ「親子のキャッチボール篇」
●住友生命保険 企業「dear my family2015」
●東京ガス 企業「家族の絆 母とは」
●トヨタマーケティングジャパン TOYOTA NEXT ONE シリーズ「THE WORLD IS ONE.」
●パナソニック エボルタ「エボルタ廃線1日復活チャレンジ」
●フルスロットルズ ドレスマックス「奥さまは花嫁」
●三井不動産リアルティ 三井のリハウス「みんなの声鉛筆」シリーズ「もう一度都心へ」「同居?or近居?」「友達と住まい」
●ユニフルーティージャパン チキータバナナ「BANANART ANIMATION」
●琉球放送 歩くーぽん シリーズ「フォアボール篇」「外野フライ篇」「1塁にて篇」
(ビジネスジャーナル 2015.06.22)