北海道新聞の書評ページ「本の森」に、『70年代と80年代 テレビが輝いていた時代』の書評を寄稿しました。
『70年代と80年代 テレビが輝いていた時代』
市川哲夫 編
評 碓井広義 上智大教授
“野放しの自由”伝える
テレビを軸とする、マスメディア批評の専門誌「調査情報」。発行はTBSメディア総合研究所だ。本書はこの雑誌に掲載された、「70年代から見えてくるもの」「80年代から見えてくるもの」という2本の特集を再構成して編まれている。
敗戦から70年。編者は1970年代と80年代を、戦後史における青春期と呼ぶ。
現在と何が違い、何が変わっていないのか。当時を検証することで、テレビと社会と人間の移り変わりを確認しようという試みだ。その狙いは見事に達成されている。本書がテレビだけでなく、政治や文化や事件にも的確な目配りをしているからだ。
こうした企画の成否は、執筆者の人選とテーマで決まる。まずは“当事者”たちだ。70年代では、ドラマ「時間ですよ」の久世光彦。「機動戦士ガンダム」の富野由悠季。「田中角栄研究」の立花隆。ロッキード事件を担当した東京地検特捜部の堀田力。情報誌「ぴあ」を創刊した矢内廣もいる。
また80年代には、「花王名人劇場」で漫才ブームを生んだ澤田隆治。ドラマ「金曜日の妻たちへ」のプロデューサーだった飯島敏宏。「ニュースステーション」に立ち上げから携わった高村裕などが並ぶ。いずれも貴重な証言だ。
さらに、魅力的な批評や論考が多いことも特徴である。関川夏央のドラマ「岸辺のアルバム」。宮台真司のコンビニと郊外。中森明夫の80年代アイドル。市川真人の村上春樹。保阪正康の中曽根政治。桐山秀樹の東京ディズニーランドなどだ。これらによって本書は、立体感のある“同時代ドキュメント”となっている。
通読して驚くのは、いや、一種の羨望(せんぼう)を覚えるのは、テレビの現場が持っていた自由な空気だ。しかも“野放しの自由”という印象であり、そこから活気が生まれた。ネットもスマホもない時代。テレビが輝いていた時代。それは、多様な作り手とその才能を野放しにできた、幸福な時代でもあった。【毎日新聞出版 2700円】
(北海道新聞 2015.10.25)