回顧2015 放送
政治の圧力にさらされて
テレビが政治の圧力にさらされた1年だった。
過剰演出があったNHK「クローズアップ現代」と、コメンテーターの発言が問題になったテレビ朝日「報道ステーション」をめぐり、自民党情報通信戦略調査会が4月、両局の幹部を呼び、事情聴取した。
個別の番組の内容にかかわる事情聴取は極めて異例。報道の萎縮につながると放送関係者や識者から疑問の声があがり、党内からも懸念する意見が出た。
NHKに対しては、高市早苗総務相も、NHKが「クロ現」問題の調査の最終報告を公表したその日に厳重注意の行政指導を行う異例の対応をとった。
また、6月にも自民党の勉強会で国会議員から「マスコミを懲らしめるには広告料収入がなくなるのが一番」など報道を威圧する発言があったことが明らかになり、強い批判を受けた。
「クロ現」問題を取り上げた放送倫理・番組向上機構(BPO)の二つの委員会は、こうした事情聴取や厳重注意についても問題を指摘した。特に放送倫理検証委員会は事情聴取を「政権党による圧力そのものであるから、厳しく非難されるべきである」と強く批判した。
これに対し、安倍晋三首相は衆院予算委員会で「NHK予算を国会で承認する責任がある国会議員が、事実をまげているかどうか議論するのは至極当然だ」と事情聴取を正当化した。表現の自由をめぐる政治・行政と放送界の綱引きは今後も続きそうだ。
■ネット配信、最大手参入
世界最大手の定額制動画配信会社「ネットフリックス」が9月から日本でサービスを始めた。国産番組を好む傾向が強い日本の視聴者に合わせ、フジテレビが制作した新作ドラマなどを配信して評判になった。最も安いコースでは月702円で番組が見放題になる。
同様のサービスは、NTTドコモが提供する「dTV」など多数ある。日本テレビは、昨年4月に米国の動画配信会社「Hulu(フールー)」の日本事業を買収してサービスを始め、今年、会員数が100万人を超えた。
無料のネット配信では、民放キー局5社が10月に共同で「TVer(ティーバー)」を始めた。こちらもアプリのダウンロードが3週間で100万を超えた。
放送番組をインターネットで同時配信する計画を進めるNHKは検証実験を始めた。同時配信を実現するには受信料制度の見直しなどの検討が必要だが、自民党の小委員会がそのための提言を行い、有識者による総務省の検討会も始まった。
■20代の16%「テレビ見ない」
視聴率争いでは日本テレビが独走している。全日(午前6時~深夜0時)、ゴールデン(午後7~10時)、プライム(午後7~11時)の三つの時間帯でトップになる月間の「三冠王」が、11月までまる2年続く。
ただし、全体ではテレビ離れの傾向は強まっている。NHK放送文化研究所が1985年から5年に1度実施している調査では、テレビ視聴時間が初めて「短時間化傾向」に転じた。「ほとんど、まったく」テレビを見ない人は、20代で16%にもなった。
ドラマも視聴率では苦戦するものが多く、NHK大河ドラマ「花燃ゆ」は全50話の平均視聴率が12・0%と、過去最低だった「平清盛」に並んだ。民放の連続ドラマでも20%を超えるものはほとんどなかったが、放送中のTBS「下町ロケット」はすでに20%を2回超えており、20日の最終回が注目される(視聴率はビデオリサーチのデータで、いずれも関東地区)。
(星賀亨弘)
<私の3点>
■碓井広義(上智大教授、放送批評懇談会理事)
▲「NHKスペシャル 見えず 聞こえずとも~夫婦ふたりの里山暮らし~」(NHK)…(1)
▲「下町ロケット」(TBS系)…(2)
▲「民王」(テレビ朝日系)…(3)
*
(1)手を握る触手話で伝え合う夫婦。幸せとは何か、生きることの原点を思う
(2)中小企業の技術者たちの奮闘と大逆転の快感
(3)首相と息子が入れ替わる喜劇が秀逸な風刺劇に
■中町綾子(日本大教授、テレビドラマ表現分析)
▲「64(ロクヨン)」(NHK)…(1)
▲「天皇の料理番」(TBS系)…(2)
▲「おじゃる丸スペシャル わすれた森のヒナタ」(Eテレ)…(3)
*
(1)昭和の忘れ物とも言える事件の翳(かげ)りを焦燥と緊迫の中に描いた
(2)周囲に支えられて輝く命の尊さを躍動感をもって伝えた
(3)戦争の記憶と向き合う覚悟を力強く、優しく訴えた
■桧山珠美(テレビコラムニスト)
▲「ブラタモリ」(NHK)…(1)
▲「おかしの家」(TBS系)…(2)
▲「徹子の部屋」(テレビ朝日系)…(3)
*
(1)専門家を凌駕(りょうが)するタモリの博覧強記ぶりに脱帽
(2)人が、日常が、愛(いと)しく思えるドラマ。日々是(これ)好日
(3)祝放送1万回。テレビの申し子に敬意を表して
(朝日新聞夕刊 2015.12.19)