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書評した本: 『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』

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現在へとつながる80年代サブカルの検証

宮沢 章夫 [著]
『東京大学「80年代地下文化論」講義 決定版』
河出書房新社

[レビュアー] 碓井広義(上智大学教授)

1982年、原宿に出現したクラブ「ピテカントロプス・エレクトス」は、日本に初めてクラブカルチャーを輸入した店だ。プロデュースを担当したのは桑原茂一。中西俊夫、藤原ヒロシ、坂本龍一などのミュージシャンから、キース・ヘリング、ナム・ジュン・パイクといった海外のアーティストまでが集った。

そんなピテカンを起点として、80年代のサブカルチャーを検証したのが本書だ。実際には著者が東大で行った講義の記録であり、10年前に一度出版されている。今回は修正を施した上に、補講という名の総括講演を収録した。前著『NHK ニッポン戦後サブカルチャー史』と併せて、現代にまで繋がる地下文化の見取り図を再構築している。

有名なコピー「おいしい生活。」に象徴される、“情報を売る”ビジネスを展開した西武セゾングループ。その“西武文化”を憎悪した「おたく」たち。「ネアカVS.ネクラ」をはじめとする単純な二分法と細分化。各ジャンルにおける差異化とヒエラルキー。読み進めると、リアルタイムで見ていたつもりのものと、見えずにいたものの両方が、くっきりとした像を結んでくるようだ。

たとえば80年代的「おたく」の動向について、著者は「趣味や情報を共有する集団の内部的埋没」を指摘する。漫画やアニメとの関係において、当初は素人ながらも作り手側にいた彼らが、鑑賞する側、ファンの集団へと変容していく。作品を作って他者と向き合うのではなく、「内閉する連帯」に沈潜する若者たち。著者は、「それを好きだと思う私が好き」という彼らの自意識に、この時代のある空気を読み取る。

その一方で、いとうせいこうの活動や漫画家・岡崎京子の作品、さらにピテカンと桑原茂一の理念などを再検討。そこにある「資本に対するゆるやかな対抗」、そして「批評性」に注目する。今後、新しいものは、そこから生まれるのかもしれない。

(週刊新潮 2016年1月21日号)

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