「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
門倉貴史 『不倫経済学』
ベスト新書 896円
最近、週刊誌で目立つのが、「死ぬまでセックス」みたいな特集記事だ。今どきの高齢者は元気だから、関心度が高いのかもしれない。しかし、こんなに煽って一体何をさせたいんだ?
そして本書である。ベッキー、育休議員から文枝師匠まで不倫騒動が続く昨今。一瞬、不倫問題の収支決算かと思ったが違った。経済学者である著者が、“熟年性愛市場”をマジメに分析し、試算しているのだ。
たとえば、「熟年離婚」の市場規模は年間約4000億円。中高年男性の「不倫」で動く総額は5兆5000億円。また、「性風俗」産業は年間約5兆円だが、うち3兆円は中高年の需要だという。さらに、「老いらくの恋」関連支出が15兆円。これらの総額は約24兆円にも達する。確かに「死ぬまで」の勢いだ。
細かい数字にも興味深いものがある。専業主婦は、不倫の“メリット”が金額換算で年間19万円を超えると、夫を裏切って不倫に走るそうだ。確かなデータと納得のいく計算法で割りだされた金額だが、これって高いのか安いのか。
著者によれば不倫は景気と密接な関係があり、不景気のほうが増加する。加えて、スマートフォンやインターネット、SNSなどの普及も不倫をサポートしている。本書を読んで、日本経済に寄与すべく不倫という名のバスに飛び乗るか。それとも冷静になってバスから降りるか。そこは各々自己責任ということで。
平野太呂 『ボクと先輩』
晶文社 1,728円
写真家の著者は今年43歳。訪ねてシャッターを切った先輩たちは当然、大人ばかりだ。浅井愼平、浅葉克己、木滑良久などのいい表情が並ぶ。また水木しげる、安西水丸と鬼籍に入った先輩も。巻末に装丁家の平野甲賀が登場し、著者の父上であることを初めて知る。
井上俊・永井良和:編著
『今どきコトバ事情 現代社会学単語帳』
ミネルヴァ書房 2,160円
イクメン、ネトウヨ、無縁社会、スクールカースト。現代社会を映し出す55の言葉が並ぶ。気鋭の研究者たちによる解説は各4ページ。起源から広がり、社会的・文化的背景までが見えてくる。「つっこみ」における玄人芸と素人評論の関係など、いずれも目から鱗だ。
カート・ヴォネガット:著、円城塔:訳
『これで駄目なら 若い君たちへ――卒業式講演集』
飛鳥新社 1,728円
著者は『スローターハウス5』などで知られる、現代アメリカ文学を代表する作家の一人だ。本書には卒業式で行った講演が収められている。その作品と同様、シニカルでユーモアにあふれた内容が刺激的。「これで駄目なら、どうしろって?」が決まり文句だ。
(週刊新潮 2016.03.24号)