北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、ベテラン脚本家による夏ドラマについて書きました。
夏クールのドラマ
ベテラン脚本家が活躍
夏クールのドラマが始まっている。恋愛物から学園物までさまざまな趣向が並んでいるが、嬉しいのは大石静、遊川和彦、井上由美子などベテラン脚本家の名前が目立つことだ。
中堅不動産会社の新宿営業所に、成績抜群の営業ウーマン・三軒家万智(北川景子)が異動してくる。不動産は高額商品であり、そう簡単に売れるものではない。しかし、万智は違う。何しろ「私に売れない家はない!」と豪語する自信家だ。北川がケレン味いっぱいにこのキメ台詞を言い放つたび、堂々のコメディエンヌぶりが笑えるのが「家売るオンナ」(日本テレビ系)である。
たとえば、駅から遠い坂の上の売れ残りマンション。相手は元々広い一軒家を探していた医師夫妻だ。万智は彼らの1人息子に注目する。忙しい両親に甘えることも出来ず、どこか寂しそうな少年だ。やがて万智の中にひらめくものがあり、結局、彼らはマンションを購入する。
この展開の中に、彼女がスゴ腕と言われる理由がある。その家族が抱えている、しかも本人たちさえ気づいていない問題点や課題を見抜くのだ。家は単なる住居ではなく、問題解決に寄与するツール(道具)となる。
つまり万智は家を売っているのではない。家を通じて“生き方”を提案しているのだ。これをユーモアあふれる仕事ドラマに仕立てた大石静の脚本に拍手だ。
大ヒットドラマ「ひとつ屋根の下」(フジテレビ系)が終了してから、約20年が過ぎた。あの「あんちゃん」こと達也はどうしているのかと思っていたら、この夏、帰ってきた。それが「はじめまして、愛しています。」(テレビ朝日系)だ。
それくらい江口洋介が演じる信次は達也を彷彿とさせる。本当は悩みもあるのだが、いつも明るく、うるさい位のおしゃべり。そして世話好き。困っている人を見捨てておけない。一方、妻の美奈(尾野真千子、好演)は、父親との確執やピアニストへの夢に破れたことなどから、ややうっ屈した女性だ。
そんな2人が、親から虐待を受けていた少年との特別養子縁組をすることになった。今は、出会いを「運命」と感じた信次に引っ張られる形で進んでいるが、本当の難しさに直面するのはこれからである。
脚本は、「家政婦のミタ」(日本テレビ系)の遊川和彦。親子とは、家族とはという重いテーマだが、くすっと笑える美奈の“こころの声”が効いている。現実を踏まえたフィクションであり、期待できる辛口ホームドラマだ。
(北海道新聞 2016.08.01)