日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。
今週は、NHK・BSプレミアム「獄門島」について書きました。
NHK BSプレミアム「獄門島」
新たな金田一像の創出だ
先週土曜の夜、NHKBSプレミアムで、横溝正史原作「獄門島」が放送された。これまで何度も映像化され、何人もの俳優が探偵・金田一耕助を演じてきた作品だ。
昭和20年代の片岡千恵蔵はともかく、市川崑監督作品での石坂浩二(75)の印象が強い。またドラマ版では古谷一行(72)を中心に、片岡鶴太郎(61)、上川隆也(51)などが金田一に扮してきた。
そして今回、長谷川博己(39)に驚かされた。これまでとは全く異なる金田一だったからだ。石坂や古谷が見せた、どこか“飄々とした自由人”の雰囲気は皆無。暗くて重たい変わり者がそこにいた。
背景には金田一の凄惨な戦争体験がある。南方の島での絶望的な戦い。膨大な死者。熱病と飢餓。引き揚げ船の中で金田一は戦友の最期をみとり、彼の故郷である獄門島にやって来た。また事件そのものも、戦争がなかったら起きなかったであろう悲劇なのである。
最後まで鬱屈を抱えた金田一だが、戦友のいとこの妹・早苗(仲里依紗)に思いを寄せる。「一緒に島を出ませんか」と一種の告白をし、静かに断られる。せつなく、そして美しい場面だった。
制作陣が目指したのは、戦争と敗戦を重低音とした原作世界への回帰であり、新たな金田一像の創出だ。長谷川博己は見事にその重責を果たした。次回作があるとすれば、「悪魔が来りて笛を吹く」か。ぜひ見てみたい。
(日刊ゲンダイ 2016.11.23)