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日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。
今回は、東京ガスのCM、「家族の絆 やめてよ」編について書きました。
東京ガス 「家族の絆 やめてよ」編
父娘のやりとり
涙誘う「ズルさ」
ズルいCMだ。東京ガスの「家族の絆 やめてよ」編である。
娘(平田薫さん)の化粧を嫌がる。テレビに出る人を悪く言う。電話でペコペコするなど、この年代の男なら誰もが思い当たるエピソードがズルい。自分のことは棚に上げて、父親(映画『鉄男』『野火』の塚本晋也監督)を苦笑いで見つめてしまうからだ。
やがて娘の結婚が近づく。アルバムに貼られた、娘の幼い頃の写真をぼんやり眺める姿もズルいだろう。しかも娘に「寂しい?」と聞かれ、「ああ、寂しいなあ」と正直に答えるなんて。困った。すっかり、このオトーサンの味方だ。
そして、ふと気づく。娘は一度も「やめてよ」と声に出して言ってはいないのだ。すべて心の中だった。それをするのは、結婚式で父親がポツリと「幸せになれよ」と言った時だ。娘は目に涙を浮かべながら、「やめてよ、おとうさん」と初めて口にする。
やっぱりズルいよ、東京ガス。また泣けてくるじゃないか。
(日経MJ 2016.12.05)