書評サイト「シミルボン」に、以下のレビューを寄稿しました。
https://shimirubon.jp/reviews/1676314
ドラマ化された、柚月裕子の「佐方シリーズ」
先週末、ドラマスペシャル『検事の本懐』(テレビ朝日系)が放送された。原作は柚月裕子の同名小説。主人公の米崎地方検察庁検事・佐方貞人を演じたのは上川隆也だ。
小説がドラマや映画として映像化された時、演じる役者が、自分のイメージとズレていることは多い。原作と映像作品は別物ではあるが、それでも違い過ぎると結構、落胆。時には怒り、だったりする。
上川隆也の佐方貞人は、今回で第3弾。すっかりハマリ役となってきた。継続は力なりだ。
ただ、これから原作小説を手に取って読もうとする時、人によっては、上川の顔がちらついて嫌だと思うかもしれない。そんなハタ迷惑も、映像化にはあるのだ。
というわけで、『検事の本懐』より前にドラマ化されている、柚月裕子の佐方シリーズ2冊を、ご紹介。もちろん、上川隆也さんの顔を思い浮かべる必要は、ありません(笑)。
柚月裕子『検事の死命』(宝島社)
『検事の本懐』で大藪春彦賞を受賞した著者。検事・佐方貞人が活躍する4つの中編が収められている。
このシリーズの第一の魅力は佐方のキャラクターにある。いわゆるヒーロータイプではない。じっくりと考え慎重に行動する。
また、人間を見る目が確かで、他者の心情の奥まで量ろうとする。弁護士だった亡き父の無念にからむ作品「業をおろす」などはその好例だ。
次に、検事としての矜持に拍手を送りたい。時に内外からの圧力を受けながら、「罪をまっとうに裁かせることが、己の仕事」だと言い切る。
その戦いぶりは、地元出身の大物代議士や地検幹部を相手に一歩も引かない「死命を賭ける」と「死命を決する」の2作で描かれている。上司や同僚など、脇役たちも実にいい味だ。
柚月裕子『最後の証人』(宝島社)
女性検察官・庄司真生の目から見て、その事件の真相は明らかだった。現場はホテルの一室。被害者は医師の妻である高瀬美津子だ。
彼女を刺殺した島津邦明は会社経営の傍ら陶芸教室を主宰していた。二人は不倫関係にあり、事件は愛憎のもつれが原因。負けるはずのない裁判だった。
島津側の弁護士は、元・検事の佐方貞人だ。仕事の依頼を受ける基準は一つ。事件が面白いかどうかだった。今回も、あらゆる要素が犯人であることを示唆する島津が、容疑を否認していることに興味を持ったのだ。
公判では真生の厳しい追及が続く。佐方は劣勢に次ぐ劣勢だが、なぜか真生は安心できない。その予感通り、やがて裁判は誰もが思いもしなかった方向へと進み始める。
「このミステリーがすごい!」大賞作家らしい、絶妙なストーリー展開の法廷サスペンスだ。