日刊ゲンダイで、NHKスペシャル「ドラマ 東京裁判」について、コメントしました。
4夜連続の全4回は、まるで4台の重戦車のようでした。
制作8年
Nスペが放送する再現ドラマ
「東京裁判」の圧倒的見応え
平日なので録画しただけで見ていないサラリーマンも少なくないかもしれないが、見応えたっぷりの労作だ。12日から4夜連続で放送中のNHKスペシャル「ドラマ 東京裁判」(総合、22時25分~)は、8年の歳月をかけて世界各国の公文書館や関係者に取材を重ね完成させたもの。民放が決して真似できない重厚感が味わえると評判になっている。
視点も面白い。主人公は、日本の戦争指導者を裁くために集まった戦勝国11カ国の判事たち。自国の威信や歴史文化を背負ったエリートの人間模様や2年半に及んだ裁判の舞台裏に迫っている。
■人は戦争を裁けるか
上智大教授の碓井広義氏(メディア論)もこう評価する。
「単なるドキュメンタリーではなく、再現ドラマという手法を用いたことで、外側からではうかがい知れない判事らの心の葛藤やぶつかり合いなど、裁判のバックヤードを知ることができる。戦後70年という歳月を経たいま、今作を通じて『人は戦争を裁けるか』という根源的な疑問について向き合う、確認する意義は大いにあると思います」
制作には戦勝国だったカナダ、オランダの両国も加わっている。主な舞台は法廷や判事室で派手さはないが、当時の建築仕様をほぼ忠実に再現したセットや国内外でのロケを敢行。そこに当時の資料フィルムも組み合わせているのだが、違和感はなく、さながら映画のワンシーンを見ているかのようだ。
俳優陣も凄い。
「裁判長役のジョナサン・ハイドをはじめ、判事役のポール・フリーマン、マルセル・ヘンセマ、イルファン・カーンなどは、いずれも映画ファンだったらこたえられないキャスティング。ハリウッド映画の主役級の役者ではないのでピンとこない人もいるでしょうが、いずれも名作の脇を固めてきた演技派俳優です。豪判事なら豪州人、英判事なら英国人といった具合に、その国の俳優を起用しているのも、制作陣の作品に対する強いこだわりをうかがわせる。東京裁判は連合国側にとっても、自分たちの正義を示すという重要な意味を持っていた。それを日本の公共放送であるNHKがどう切り取るか。主張や描き方を注目したいところです」(映画批評家の前田有一氏)
初回放送の直後からSNS上では右派左派がそれぞれの観点で意見を書き込み、騒ぎになっている。祖父の岸信介がA級戦犯として裁かれた安倍首相の感想も聞いてみたいところだ。
(日刊ゲンダイ 2016.12.15)