北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、「カルテット」と「就活家族」について書きました。
冬ドラマの意欲作
スリリングな会話と展開
4人のアマチュア演奏家がカラオケボックスで知り合う。バイオリンの真紀(松たか子)と別府(松田龍平)、ヴィオラの家森(高橋一生)、そしてチェロのすずめ(満島ひかり)だ。彼らは、別府の祖父が持つ軽井沢の別荘を拠点に、弦楽四重奏のカルテットを組む。ゆるやかな共同生活も始まった。
新ドラマ「カルテット」(TBS―HBC)は、音楽を梃子(てこ)にして、冬の軽井沢を見事な“ドラマ空間”に仕立てた設定がうまい。夫が謎の失踪を遂げたという真紀。その夫の母親(もたいまさこ)から、真紀の動向を探ることを依頼された、すずめ。家森は怪しげな男たちに追われている。さらに別府の事情や本心も不明のままだ。
そんな4人が、鬱屈や葛藤を隠しながら交わす会話がスリリングで、“行間を読む”面白さがある。舞台劇のような言葉の応酬は、脚本家・坂元裕二の本領発揮だ。また、一つ一つの台詞がもつニュアンスを絶妙な間(ま)と表情で伝える役者たちにも拍手だ。いい意味で独特の暗さがあり、万人ウケはしないかもしれない。しかし続きが見たくなる、クセになるドラマとして、今期一番の出来だ。
安定していたはずの家庭が、ふとしたきっかけで危機に陥っていく。「就活家族~きっと、うまくいく~」(テレビ朝日―HTB)の舞台は家族4人の富川家だ。夫の洋輔(三浦友和)は元・大手企業人事部長。妻の水希(黒木瞳)は中学教師。娘の栞(前田敦子)はOL。そして弟の光(工藤阿須加)は就職活動中の大学生である。
最初は役員就任が目前だった洋輔にトラブルが発生した。リストラの通告を受けた女性社員(木村多江)がセクハラ疑惑をでっち上げ、会社に訴えたのだ。背後には社内の出世争いがあったのだが、洋輔は子会社への出向を拒否。結局、退職の憂き目に遭う。しかも苦境は洋輔だけではない。怪しげな就活塾に入った光の就職問題、水希の雇用延長問題、さらに栞が受けるパワハラ問題など、まさに問題山積の展開だ。
作りは堂々の社会派ホームドラマである。リストラも就活もリアルなエピソードばかりで、見ていて息苦しいほどだ。願わくば、もう少しユーモアがあるとありがたい。とはいえ、この年代の男の強さともろさを見せる、三浦友和の演技と存在感が光る。これだけで一見の価値がある。昨年の「毒島ゆり子のせきらら日記」(TBS―HBC)で演技に開眼したはずの前田敦子にも期待したい。
(北海道新聞 2017.02.06)