北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、「A LIFE~愛しき人~」と「嘘の戦争」について書きました。
「SMAP」元メンバーの主演作
脚本の完成度に差
昨年末に解散したアイドルグループ「SMAP」。現在、元メンバーである木村拓哉の「A LIFE~愛しき人~」(TBS―HBC)と草彅剛の「嘘の戦争」(関西テレビ―UHB)、2本の主演作が放送されている。
木村が演じているのは、アメリカで修業を積んできた優秀な外科医・沖田一光だ。そして物語の主軸となっているのが、脳に危険な 腫瘍をもつ女性の手術である。しかも彼女は 病院長・壇上虎之介(柄本明)の娘であり、渡米前は沖田の恋人であり、現在はかつての同僚で副院長を務める壇上壮大(浅野忠信)の妻となっている深冬(竹内結子)なのだ。
いわば医療ドラマと愛憎ドラマの融合だが、その試みは面白い。ただ残念なのは、橋部敦子が手がける脚本の弱さだ。なぜか主人公の周囲の人間が次々と患者になる。沖田をアメリカから呼び寄せた病院長、病院の顧問弁護士(菜々緒)の父親、そして沖田の父親(田中泯)までが心臓疾患で倒れるのだ。
さらに深冬の脳の手術を、「心臓血管と小児外科が専門」の沖田が行うこと自体、ご都合主義と言われても仕方がないだろう。木村が「パターン化したキムタクドラマ」などと揶揄されないよう健闘しているだけに惜しい。
「嘘の戦争」は復讐劇だ。30年前、一家心中に見せかけて家族を殺された一ノ瀬浩一(草彅)が詐欺師となり、事件の関係者を次々と破滅させていく。その過程で気弱な失業者や精悍なパイロットに成りすます、草彅の巧みな“変身”が目を引いた。「他人をだますには自分をだますんだ」という台詞が、草彅自身の演技論に聞こえるほどだ。
浩一が最大の敵としてきた実業家・二科(市村正親)。その長男・晃(安田顕、好演)を取り込み、跡継ぎである次男・隆(藤木直人)の追求をかわし、彼らの妹で女医の楓(山本美月)を手中にしようとする浩一。連ドラながら毎回のエピソードにきちんと決着がつくため、見る側を飽きさせない。このメリハリは2年前の草彅主演作「銭の戦争」と同じ脚本家・後藤法子の功績だ。
「傷のない人生なんてあり得ない。心のすき間さえ見つければ、あとはそこに入り込むだけだ」。「罪を逃れて、のうのうと生きてきたヤツには、それ相応のつぐないをしてもらわないとな」。「地獄、見せてやる」といった印象に残る言葉をポイントとなる場面に刻みつける脚本に、草彅は演技で応えてきた。それは役者としての進化だ。ドラマはまだ謎を抱えたまま、終盤へと向かっている。
(北海道新聞 2017.03.07)