北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、NHKの「3.11」特番について書きました。
ドラマとドキュメンタリーを駆使
「3.11」をリマインドしたNHK
3月23日から2夜連続で、NHKが特集ドラマ「絆~走れ奇跡の子馬~」を放送した。東日本大震災と原発事故で家族と牧場を失った福島の一家が、震災の最中に生まれた子馬を競走馬として育てていく物語だ。
あの日、松下拓馬(岡田将生)は馬の出産に立ち会って亡くなった。地元からGⅠ馬を生み出すという息子の夢を実現しようと奔走する父・雅之(役所広司)。看護師として働きながら牧場を支えてきた母・佳世子(田中裕子)。東京から戻って父を助ける拓馬の妹・将子(新垣結衣)。実力派の俳優陣が現地に暮す人々の6年間を丁寧に演じていた。
雅之たちは北海道の生産育成牧場に子馬を預けようとするが、「あの馬、被ばくしていないと言い切れるのか」と断られてしまう。また新たな牧場を作ろうとした土地も除染廃棄物置き場となってしまう。自分たちではどうにもならない現実と悔しさが描かれていく。
全体的に抑制の利いた、ストイックともいえるドラマだった。しかし寡黙に徹した役所広司が被災者の憤りを、そして「あの子馬を見ると息子を思い出してつらい」と静かに語る田中裕子が被災者の悲しみを代弁していた。
NHKスペシャル「シリーズ東日本大震災」が2本続けて放送されたのは3月11日の夜だ。どちらも重要な問題提起を行っており、見応えがあった。1本目は「“仮設6年”は問いかける~巨大災害に備えるために~」。
現在も3万5000人が仮設住宅で暮らしている。しかし、この施設での長期生活には無理があり、亡くなる高齢者も多い。番組はこの事態の原因として「災害救助法」を挙げる。昭和22年に制定された古い法律で、仮設暮らしが長期化する大規模災害に対応できないのだ。
かつて見直しも検討されたが、応急救助の厚生省と再建支援の国土省の折り合いがつかなかったという。“災害救助法の壁”と“省庁の壁”。2つの壁の存在と問題点を明らかにした番組の意義は大きい。
2本目のNスペは「避難指示“一斉解除”~福島でいま何が~」だ。先日、国の判断で福島県4町村の避難指示が一部解除された。しかし住民は、放射線量への不安、山積みの除染廃棄物、打ち切られる補償といった悩みを抱えたままだ。
一方、自治体は村や町の存続への危機感から避難指示解除を急いできた。そのギャップが行政と住民、住民同士、さらに家族の間での“分断”を進行させている。それは二重被災ともいうべきもので、あらためて誰のための復興なのかが問われていた。
(北海道新聞 2017.04.04)