「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
西川美和 『映画にまつわるXについて 2』
実業之日本社 1728円
昨年公開された映画『永い言い訳』。本書は監督としてこの作品と向き合い続けた5年間の記録だ。まず小説として書き上げた。それを映画のために再構成し、脚本にしていく。監督という特殊な職業人の思考回路、映画制作のプロセス、そして時々私生活をも垣間見る。
川畑 弘
『BAR物語~止まり木で訊いたもてなしの心得』
集英社インターナショナル 1296円
著者はバーテンダー向けのPR誌『ウイスキーヴォイ ス』編集長だ。忘れられないバーとバーテンダーのエピソードが開陳されていく。70年のキャリアをもつ札幌の達人。南相馬市で薪ストーブのバーを営む若い夫婦。戦前から銀座で仕事を続けてきた伝説の人に合掌する。
雨宮処凛 『自己責任社会の歩き方』
七つ森書館 1620円
20年前、弱者を排除するかのような医療保険制度改正が実施された頃から、「自己責任」という言葉が増殖を始めた。今や鉄壁の「自己責任社会」だ。著者は相模原事件、生活保護バッシング、電通過労死事件などを俎上に上げ、その実体を明らかにしていく。
皆川博子 『辺境図書館』
講談社 2376円
秀逸なタイトルだ。ブルーノ・シュルツ『肉桂色の店』、マルセル・シュオッブ『黄金仮面の王』など未知 の作家、未読の作品の多さにたじろいでしまう。同時に好奇心と読書欲を刺激される。1930年生まれの直木賞作家が特別に公開してくれる書庫の奥だ。
(週刊新潮 2017.06.08号)