「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
光を当てなければ見えない この国の“裏面史”
森 功 『日本の暗黒事件』
新潮新書 778円
ノンフィクション作家・森功の新著『日本の暗黒事件』には10の重大事件が登場する。最も古いのが1970年の「よど号」事件。逆に近いのは98年の和歌山毒物カレー事件だ。その間を埋めるようにロッキード事件(76年)、三井物産マニラ支店長誘拐事件(86年)、神戸連続児童殺傷事件(97年)などが並ぶ。
いずれも事件の当事者を軸に、その経緯が的確にまとめられている。中でも興味深いのがグリコ・森永事件(84年)だ。著者はリアルタイムで事件に接してはいないが、時効になるまで取材を継続してきた。浮かび上がるのは、「かい人21面相」が仕掛けた策略や罠の巧緻さであり、引っ張り回された警察の醜態である。
消費者を人質にしたこの無差別テロの後、広域捜査の陣頭指揮を警察庁が執るようになった。余談だが、事件発生時の森永製菓社長令嬢が、現在は首相夫人というのも奇遇だ。
著者は本書を「日本社会に潜んできた悪玉が引き起こした裏面史」だと言う。さらに暗黒事件は「姿を変えてときおり闇のなかから顔を出す」と。光を当てなければ見えない歴史的連続性がそこにある。
毎年9月に新入生を対象とした特別講座が開かれる。今年の1年生の大半は1998年生まれで、本書が扱う全ての事件は想像するしかない歴史上の出来事だ。彼らにこの本を推薦しようと思う。そのためにも各事件についての参考文献や関連書籍の一覧があると有難い。改訂の際には、ぜひ。
(週刊新潮 2017年8月10日号)