
「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
あの大ヒット作とその裏の人間模様
豊田有恒 『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』
祥伝社新書 842円
1974年の放送以来、何度も劇場版が制作され、日本を代表するアニメの一つとなった『宇宙戦艦ヤマト』。SF作家である豊田有恒は、この作品に企画段階から関わっていた。『「宇宙戦艦ヤマト」の真実』は、貴重な誕生秘話から制作の内幕までを明かす回想記だ。
ある日、仕事仲間から「本格的なSFアニメをやりたいプロデューサー」に会って欲しいと頼まれる。それが西崎義展との出会いだった。著者は、「原案」のクレジットを入れるという口約束を信じて、「設定」を考える役目を引き受ける。
本書で興味深いのが、『ヤマト』の物語構造が作られていくプロセスだ。著者は影響を受けたものとして、アメリカのSF作家、ロバート・A・ハインラインの『地球脱出』と、中国の伝奇小説『西遊記』を挙げる。
またアレキサンダー大王の名が由来となる「イスカンダル」や、宇宙空間を一気に飛び越える「ワープ航法」など、著者ならではのアイデアを開陳。ただし、海底に眠る戦艦大和を用いることを言い出したのは漫画家の松本零士だそうだ。
一方、『ヤマト』がヒットしていく中で、西崎による“私物化”が進んでいく。著者が「クリエーターの生き血を吸う吸血鬼のような正体」と言う、この毀誉褒貶の激しいプロデューサーの実像が当事者によって語られたという意味で、本書は画期的な一冊かもしれない。
ちなみに西崎は7年前、自身の会社が所有する船「YAMATO」から転落し、75歳で没している。
バーナデット・マーフィー [著]/山田 美明 [訳]
『ゴッホの耳―天才画家 最大の謎―』
早川書房 2,376円
なぜゴッホは自身の耳を切り落としたのか。新たに発見された資料を手掛かりに、約130年前に起きた事件の真相に迫る。耳を手渡されたという娼婦。同居者だったゴーギャン。そして弟のテオなど関係者たちの個性も際立っている。その夜、天才画家に何が起きたのか。
河出書房新社編集部 [編集]
『池澤夏樹、文学全集を編む』
河出書房新社 1,728円
個人が世界文学全集と日本文学全集を編む。それは一つの事件だった。全集の意味、「選び方」の決め方から、完結によって見えてきたものまでが明かされる。また大江健三郎との対談や斎藤美奈子の論考、さらに編集鼎談などが“文学のいま”を映し出していく。
(2017年11月16日号)
岩間 優希 『PANA通信社と戦後日本』
人文書院 1,456円
戦後に活動を始めたPANA通信社(現・時事通信フォト)。その軌跡を探ったノンフィクションだ。設立したのは米軍唯一の中国人従軍記者、宋徳和。ベトナム戦争取材で注目された岡村昭彦も関わっていた。知られざる現代アジア・ジャーナリズム史である。
小池 真理子 『感傷的な午後の珈琲』
河出書房新社 1,620円
『闇夜の国から二人で舟を出す』(小社刊)から、12年ぶりのエッセイ集となる。2011年の震災がもたらしたもの。読者からの手紙に記された高齢者の性。著者が考える小説の読み方。夫で作家の藤田宜永氏との軽井沢暮し。親しかった人たちへの追悼も本書の軸だ。
(2017年11月09日号)